英国一家、日本を食べる

最近読んだ本。


英国一家、日本を食べる  マイケル・ブース/著 寺西のぶ子/訳 2013年 亜紀書房

英国一家、日本を食べる (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)


〜極東の島国を 北から南へ 食の旅〜



イギリスのトラベルジャーナリストであり、またフードジャーナリストでもある著者は、友人からもらった一冊の本がきっかけで、日本食べ歩きの旅行に出かけようと決意する。その本とは、1979年出版・辻静雄/著「Japanese Cooking: A Simple Art」(出版情報は本書による。2006年に講談社インターナショナルより新装版も出ている)。
                        Japanese Cooking: A Simple Art   英文版 辻静雄の日本料理 [新装版] - Japanese Cooking: A SimpleArt    
                               ↑新装版   
       

旅行は3ヶ月間、家族全員で、と話がまとまり、妻、6歳と4歳の息子、総勢4名の御一行様となる。

表紙のイラストは、富士山をバックに東京タワーや寺院、日本酒、カップヌードルが林立。ふもとには新幹線が走り、四股をふむお相撲さんも。手前の大海原には蛸や寿司桶、メロンなどがぷかぷか浮かんでいる。いかにもエキゾチックなイメージの絵。だが、異文化からの来訪者には、日本はこんな風に見えるのかもしれない、と読後にはじんわり親しみを覚えるような、好印象に変わった。

旅は東京から始まり、北海道、京都、大阪、福岡、沖縄と巡る。

ところどころ皮肉のスパイスを効かせた勢いのある文章で読みやすい。鮨、天ぷらのみならず、居酒屋の焼き鳥、ちゃんこ鍋、お好み焼きなど幅広く食す。TV番組ビストロスマップの収録スタジオ潜入、調理師学校の訪問や、北海道では昆布の漁場を訪ねたり、アイヌ文化を知るため北方民族資料館を見学、京都では町屋に滞在したり精力的だ。

初めは、ちょっと茶化して書いている面白おかしい日本旅行記だと思いながら読んでいたが、だんだん、日々口にしているものに対して私自身はなんと無頓着なんだろう、という気がしてきた。

たこ焼きにしても豆腐にしても、元々それを知らない人が材料から栄養からこと細かに説明してくれるのだ。麺類の中での、うどん、そば、ラーメンの微妙な関係や、鮨の成り立ちや歴史など情報量は百科事典なみ?!一流の料理人やラーメン王、酒蔵で杜氏として働くイギリス人等々、登場人物も多士済々。家族旅行らしく小さな子どもに振り回される一幕もありおかしい。

極上の和食を供する店での一章は、その味覚体験が、私のような大雑把な味覚しか持ち合わせない者にも充分に伝わってきた。また、なるべく多くの料理を味わいたいと、ある日昼食を2回とったという件には、その丈夫な胃袋と取材に対する熱意に頭が下がった。(ご本人は体重増を気にかけている様子だが)


毎日当たり前に接しているものを旅人の目で外から見てみたら‥。本の途中からは、自分が暮らす日本のことなのに、外国旅行の心持ちになり軽いカルチャーショック。不思議な楽しさを味わった。