大石始トークショー「映像で巡るアジア音楽のいま」~追記あり(3/15)

先日、トークショーにZoomで参加した。(参加は、来場かZoomかの選択)

Zoomをやってみたのは、自分史上、初。どきどき。

faam.city.fukuoka.lg.jp

 

大石始トークショー「映像で巡るアジア音楽のいま」

日時:2022年2月26日 14時~16時

会場:あじびホール(またはZoom)

 

 

果たしてパソコンの画面の前で集中できるものだろうか、とも思ったりしたのは、杞憂で、充実の2時間余り、時間が速く過ぎた。

 

"映像で巡る"…というのは、ミュージックビデオを見ながら、ということだったということだったんですね。

とても面白かったので、10日余り経ちましたが様子をリポートしたいと思います。…長文です。。

(といっても、聴きながら取った自分のメモを基にしているので、そもそもメモが間違っていたり、解釈が違っていたりしたらすみません。そんな時は教えていただけたら有難いです)

 

☆☆☆まず、前半は、シティ・ポップ

海外で今、流行中の日本の70年代~80年代のシティ・ポップ

そのブームとして、特に竹内まりあの「プラスティック・ラヴ」や、松原みきの「真夜中のドア~Stay With Me~」があげられるが、「真夜中のドア」の今回のブレイクのきっかけになったのは、インドネシアのある歌手がカバーしたことだった……というようなお話から始まった。

 

え~っ、そんなことになっていたとは、と出だしからちょっと驚いた。

松原みきが再ブレイクしているということは何となく知っていたが、そういうスケールだとは知らず。

そもそも「海外で人気のシティ・ポップ」という前提を知らず、へ~っと思い、新鮮に感じた。

 

スクリーンに、そのインドネシアのシンガーRainych(レイニッチ)の「真夜中のドア~Stay With Me~」のビデオ(You Tubeかな?)が流れた。ヒジャブを被った可愛らしい若い女性の、甘く涼やかな歌声。

 

このブームの背景として、90年代に日本のアニメやトレンディ・ドラマがアジアで流行したということがあるそう。

(『東アジアのサブカルチャーと若者のこころ』千野拓政/編 勉誠出版 の紹介あり)

 

そして、アジアではシティ・ポップは、イメージとしてアニメと同じようなものとして捉えられていると聞いて、驚いた。(日本人の私には感覚的に、わからない…)

 

その後、アジアのシティ・ポップのビデオが3つ紹介された。

 

李行亮(リー・ハンリャン)〈中国〉 

楽曲:Shall We Chat[アルバム・ロングバケーションより] (彼は山下達郎のファンだそう)

ビクターMKⅡ〈フィリピン〉 楽曲:Too Beautiful

Rattana〈タイ〉 楽曲:Hello Ocean  (彼も山下達郎のファンだそう)

 

李行亮のプロデューサーの話として、中国のシティ・ポップ好きは2グループあり、一方はコアな音楽好き、もう一方は、流行、ブームとしてシティ・ポップを好んでいる、ということだった。

 

3曲とも初めて聴いたけれど、親しみやすく懐かしい雰囲気……といっても、日本のポップスのテイストが下地にあるので懐かしいのは当然と言えば当然…?

 

前半は、日本のちょっと前のポップスのビートをずっと聴いていたような気がして意外な展開。

ドラムの3拍めは、スネアドラム?でしたっけ?

あの、ぴしっ、ぴしっ、という音は、70年代~80年代のポップスの特徴の一つだと思うけど、あの音がしばらく頭に響いていた。

 

以前(80年代~90年代)、ワールドミュージックがブームだった時は、エキゾチックなものが求められていたが、現在は、異国情緒ではなく共通しているもの(国に関係なく共通しているもの…という意味だと思う)が注目されている、というお話だった。

そのワールドミュージックの観点からは見過ごされてきた音楽をまとめたものとして一冊の本が紹介された。

『アジア都市音楽ディスクガイド』(菅原慎一/監修・編集 DU BOOKS)

 

 

☆☆☆後半は、関係者へのインタビュー映像も

 

時間が半ば過ぎたあたりから、事前収録された特別ゲストへのリモートインタビューのコーナーになった。登場順に次の方々。(名前と肩書は福岡アジア美術館のHPより)

・菅原慎一(音楽家

・山本大地(音楽ライター、韓国ソウル在住)

・喜多直人(PANDA RECORD主宰)

 

それぞれの人に対して、まずインタビューがあり、その後に、それぞれの注目アーティストのビデオが紹介されるという流れだった。

 

まず、菅原慎一氏。ミュージシャンであり、かつ、上掲『アジア都市音楽ディスクガイド』を書かれた人(監修も)だそう。

コロナ前は、台湾でライブをやったり、アジアのアーティーストたちと交流があるという。その上で、各国のアーティストたちとは、共通点もあるし、ずれ(違い)もあるという、実際に音楽活動をしている人ならではの言葉が聞かれた。

注目アーティストとして、2組紹介され、会場に映像が流れた。

 

・Tempo Popo〈台湾〉(DJグループ3人組) 

洋楽と台湾のグルーブが混ざり合っている、というコメントだった。

流れた映像は、お店のパーティか何かで、すごくまったりした雰囲気。

・RUTHLESS〈台湾〉 楽曲:It’s Your Fault

R&B、ネオソウル系。女性ヴォーカルの物憂げな歌声が印象的。

 

次に、山本大地氏。ソウルからのリモート映像。

ソウルはとても寒い、最高気温0度、という季節の挨拶がまずあった。(それなのに薄着…室内は暖かい?)

韓国のインディーズシーンの紹介ということだったが、その前に韓国の音楽全体についての解説。

韓国というと、K-POPの印象が強いかもしれないが、昔から人気があるのは、バラード。次に、アイドル、続いて、HipHop・ラップ、そしてトロット(←演歌のようなジャンル)だそう。

 

そんな中でインディーズはマイナーで、規模も大きくない。音楽メディアもあまり多くないので、ブレイクするには、テレビのオーディション番組や、バラエティーに出たりするらしいのだが、最近は、ライブ映像のプラットフォームもできて、そこから発信することができるようになった。一方、規模が大きくないことで、交流や連帯が強いという面もあるそう。

山本さんは、「またホンデで会おう」というネットでの連載記事で情報を発信中ということだった。

 

そして、注目アーティストが、2組紹介され、会場に映像が流れた。

・Leesuho(イ・スホ)楽曲:Idol ラップ。尖がっていた。   

・soumbalgwang 楽曲:Dance  釜山のバンド。パンク。

 

最後に、喜多直人氏。

初めに、主宰しているPANDA RECORDについて。

2014年に設立、中国の音楽を紹介するレーベル。日本では中国の音楽を聴く機会が少なく、日中の架け橋を目指している、とのこと。

それから、中国の音楽事情についてのお話。

最近は、ネットの影響で、インディーズも増えてきた、中国は広いのでインディーズも地域色が豊かだそう。

歌詞は検閲があるが、アーティストもそれを切り抜けるため、言葉をひっくり返したり、言葉遊びをしたりしていて、そこから思いがけない表現が生まれることもあるという。また、ライブでのセットリストも政府に提出しなければならないと聞いて、そこまで…と驚いた。(アンコールもできないらしい)

 

例によって注目のアーティスト2組は、李志(リージー)と海朋森(ハイパーソン)。

中国で観客動員数が一番多いシンガーソングライターが李志。日常を淡々と歌う歌詞で(主義主張なし)、フォークに通じるものがあるそう。ミレニアル世代に大人気だということだ。

海朋森は女性ヴォーカルのバンド。

 

北京のお勧めスポットとしてライブハウス「スクール」の紹介もあった。中国ではライブハウスの運営自体が難しいが、そんな中、20周年を迎えたそうである。

 

会場の大石さんより、本の紹介『中国新世代ーチャイニーズ・ニュー・ジェネレーションー』(小山ひとみ/著 スモール出版)があり、その後、喜多さんの注目アーティスト2組の映像が流れた。

 

・李志 …楽曲名…メモとれず

・海朋森 楽曲:成長小説(?) 女性ヴォーカルのシャウトのような強い歌唱におぉっ!と思った。なかなか魅力的。(シュガーキューブスを初めて聴いた時のことを思い出した。80年代の話ですが。)

 

ここまででインタビュー・セクションが終わり、様々な個性的な音楽が流れたが、会場ではその後、もう3,4曲、更に個性的なビデオが紹介された。

 

・ADG7(アグンダンチル)〈韓国〉 楽曲:Hee Hee 

韓国の伝統音楽である国楽に現代的なアプローチを行うバンド。古楽器(日本のものと似ているように見えた)を手にした男女のメンバーがずらりといた。

 

・MONGOLIAN HIP HOP RAP ARTIST〈モンゴル〉 楽曲:TOONOT

  ↑グループ名ではなく、ラッパーたちが一時的に集まって撮られたものらしいのだが、もう、ダミ声のラップがド迫力。背景はモンゴルの寺院や自然だったが、ギャップ…ではなく、なんか融合しているような。

 

ここでまた、本の紹介あり。『ヒップホップ・モンゴリアー韻がつむぐ人類学ー』

                           島村一平/著 青土社

 

そして、まとめ、のようなニュアンスで、アジアの音楽は均一化されてシェアされやすくなった一方、独自のものを探る動きも出てきている。また、現代ではSNSの力が非常に大きい。個人の知識の集合知が実態を現わしている、というようなことを話された。

 

最後に、個と個の共演として、日本とアジアのアーティストのコラボ作品のビデオが流れた。

・Houg〈シンガポール〉feat.VIDEOTAPEMUSIC〈日本〉 楽曲:7 ain't home

・イ・ラン〈韓国〉、折坂悠太〈日本〉 楽曲:調律

 

トークの大石さんも、インタビューの方々も、大上段に構えるというのではなく、それでいてそれぞれのアーティストや楽曲の魅力が自然に伝わってきた。

ITに苦手意識がある自分だが、思い切ってZoomで参加してよかった、と思った。「真夜中のドア」以外は全て知らない曲だったが、ジャンルが多様で、それぞれに惹かれた。

 

各国の文化を感じながら、アジアの音楽を楽しみ、知らなかったことも知ることができた貴重な時間を(コロナ禍やこのような世界情勢であるから尚更)有難いと思った。

 

☆☆☆

 

会の終了後、進行役の方より、アジア美術館のミュージアムショップで大石さんの本が3タイトル発売中というお知らせがあった。

そのうち1冊は残念ながら聞き取れなかったが、残り2つは……

 

『盆踊りの戦後史』(筑摩書房

盆踊りの戦後史 ――「ふるさと」の喪失と創造 (筑摩選書)

 

『奥東京人に会いに行く』(晶文社

奥東京人に会いに行く

 

アジア音楽の本ではなかった。幅広い守備範囲だなぁ。

 

 

~~追記~~’22.3月15日~~

 

聞き取れなかった1冊の本が何だったか、情報が寄せられました!(ありがとうございます)

『大韓ロック探訪記(海を渡って、ギターを仕事にした男)』

長谷川陽平/著、大石始/編集、ケイコ・K・オオイシ/写真 (DU BOOKS)

 

大韓ロック探訪記 (海を渡って、ギターを仕事にした男)

 

アジアの音楽の本でした ☆☆