男嫌い

今年の夏は35℃以上の日が何日も続いた。街中丸ごと温室。
かと思えば昨日は土砂降り。街中丸ごと洗濯機。
極端から極端へ。適度に‥というのは難しいんでしょうか?

6月に観たお芝居です↓



『男嫌い』

作:鈴木聡
演出:藤井清美
出演:沢口靖子 陣内孝則 木の実ナナ 松井誠 長谷川稀世 ほか
日時:2013年6月5日(水) 14時〜
場所:福岡市民会館 大ホール



〜笑って楽しんで蕎麦食いねぇ 上質な下町お祭り喜劇〜
 


鮮やかな黄色をバックに、沢口靖子陣内孝則木の実ナナを始め10人くらい写っているポスターはとっても賑やか。「人情味あふれる最高におもしろいハートフル・コメディ!」とある。でもこれを見ただけでは本当に面白いかどうかは未知数だと思う。しかしだ。このお芝居の作者・鈴木聡の作品を一度観たことがあり(「裸でスキップ」http://d.hatena.ne.jp/chihiroro77/20130326/1364307997)、きっとハートフルなだけじゃなく一ひねりあるだろうと思って、観に行った。そしたら、やっぱり一ひねり、二ひねりあって、面白くておかしくて笑って安心して家路につける舞台だった。


会場に入ると、ステージにかなり近いあたり客席一帯に、ペンライトを持っている集団を発見。紺の法被を着ている人たちもちらほら。また、ロビーの物販付近にも、美しい女形のドアップのポスターが貼ってあり、なぜ?と思ったのだが、お話が途中まできて、その訳がわかった。


舞台は東京下町の老舗そば屋。商店街の面々が毎日出入りし溜まり場になっている。この店を母(木の実ナナ)と切り盛りする志津子(沢口靖子)は、独身アラフォー。恋多き母とは正反対、美人なのに縁遠くて不思議だね、と周りもやきもき。そば打ち職人の兄(福本伸一)の結婚が決まり、小姑となる彼女は、一人暮らしでもしようかと考えている。

そこへ、下町のガイドブックを作っているという出版社の男・近藤(陣内孝則)が現われる。調子がいい人物で、あちこちにずんずん聞き込みしているうちに、志津子のことを気に入った様子。

そんな時、町に大衆演劇の公演がやってくる。座長はなんと、20年以上前にこの町から姿を消した志津子の初恋の相手・和夫(松井誠)だということが発覚する。胸をときめかせる志津子。

この三角関係にプラスして、昔、母の駆け落ちで割を食った伯母(長谷川稀世)がたびたび登場したり、勘当された和夫の親子関係など、いくつもの話のタネが生き生きと枝葉を伸ばして、更に、踊りありダンスあり歌も少しあり。枝葉が伸び放題というわけでなく、ここぞというところで辻褄が合っていくのがすごい。


劇中劇ならぬ、“劇中舞台”として登場したのが、大衆演劇のステージ。演歌に合わせて、女形たちが妖艶に舞うショーが結構たっぷりあった(先の松井誠のほかに、宝海大空、カムイが出演)。私はこの手のものを観るのは初めてで物珍しかった。客席のペンライトや法被姿の謎が解けた。大衆演劇ファンの人たちだったのだ。

沢口靖子は、若い時はお人形さんみたいだねと褒めそやされ、家族のためウチのためと働いているうちに婚期を逃してきたという役柄で、自虐ネタも多いが、舞台上の彼女は華奢でかわいくて、それが自虐にならないところがいい。後ろの席の人たちも「美人さんやね」と話していた。私もべっぴんさんだな〜思った。“男嫌い”と思われているが、こっそりブログで官能小説を書いているという秘密があり、でも、清潔感があって軽やか。沢口靖子の一般的なイメージを意識して作られた役だと思うが、ふわりとしてユーモラスだった。

その沢口靖子扮する志津子の友人、モリコはダンスの先生。長い手足のレオタード姿で伸びやかで弾むようなダンス。パンフレットをみたら樹里咲穂。元タカラジェンヌ。なるほど。

舞台は一階がそば屋の店舗。店舗の天井から上が橋(外の場面の時はそこでお芝居)。それが基本形で、一階部分がダンス教室になったり、大衆演劇舞台になったり、大掛かりだったが、ステージいっぱいにダブルベッドが運ばれて来た時は驚いた。ちょっと意外な展開で、どうなるんだろうと固唾を呑んで見入ってしまった。


下町人情話に見せかけて、そこに人間臭いドラマをいくつか放り込む。ただちょっとお伽噺の味つけもある。こういうのがさりげないけど職人技というのかも、と思う。


公演が始まる前に、お昼をとったのだが、おそばを食べたいと思いつつ流れで違うものを食べた。キッシュ。これもおいしかったけど、お芝居の舞台がそば屋で、出演者がざるそばを食べるシーンも出てきた。あ〜やっぱり、ざるも食べたかった‥と食欲も刺激された。