散歩する侵略者

先週、前川知大さん(劇団イキウメ主宰者)のツィッター紀伊國屋演劇賞の授賞式の様子がアップされていました。これです。

イキウメが団体賞受賞。おめでとうございます♪

‥で、それで思い出したわけではないのですが‥。
昨年末に観劇したイキウメのお芝居の感想をアップします。

北九州の小倉に観に行きました♪
↓↓


      

                          (窓からお城が見えると毎回写真に撮りたくなる)


散歩する侵略者


劇団「イキウメ」

作・演出:前川知大 

出演:浜田信也 安井順平 盛 隆二 森下 創 大窪人衛/
   内田 慈 松岡依都美 栩原楽人 天野はな 板垣雄亮 

美術:土岐研一  音楽:ゲイリー芦屋

日時:2017年12月3日(日)14時〜

場所:北九州芸術劇場 中劇場



〜劇団イキウメ 久しぶりの福岡公演〜



ありふれた毎日の 変調のとき


待望のイキウメの北九州公演だった。
ここ数年、なかなか九州には来てくれず、関門海峡を越えての公演は何年ぶりでしょう?

劇団「イキウメ」のお芝居は、静かに淡々と話が進んでいるうちに「あれれ‥?」と気づいたら、違う世界に足を踏み入れている感覚。

日常からの地続きのちょっと向こう側の世界‥と初めて観た時に感じたし、実際そう評されていたり、また主宰者もそう口にしたり、はたまたSFやホラー、オカルトともいわれたりする舞台。

コワいものが苦手な私が、なんでこうもこの劇団のお芝居に惹かれるのか‥というと、表現がどぎつくなく洗練されていることと、あと、観終わった後の解毒作用もその一つ。と、今回の公演を観て改めての感想。(別に宗教っぽいというわけではありません)

そしてその舞台世界は、この世から地続き、というより、緩やかに地滑りしている別の世界‥とも感じた。全く別世界の話ではなく、気づかないうちにそうなるかもしれない‥という警鐘ともとれる。

今回観劇の「散歩する侵略者」、初演は2005年で、2007年、2011年、に続いての再演だそう。(私は2011年の舞台を観ている。)
そして、公演に先立つ2017年9月には、黒沢清監督により映画化された「散歩する侵略者」が公開され、話題を呼んだ。(映像になると表現が直接的になってコワそうなので、コワいものが苦手な私は鑑賞を見送った)



開演前の劇場に入ると、低く波の音が聞こえる。ここは海の近くの町。不穏な空気。

客電が落ち、ステージがゆっくり明るくなる。舞台上ほぼ全域を占めるほどの白い斜面が現われた。傾斜30°くらいで、舞台奥が高くなっている。傾斜のある舞台を“八百屋舞台”というらしいけど、白い八百屋舞台をステージ上に載せているかんじ。(美術:土岐研一)

ここは海岸。そこを裸足でフラフラ歩いている男。そんな彼を心配そうに見ている男もいる。男は男に声をかける‥

この演目を観るのは2回目だが、荒筋以外の細かいところは記憶が薄れていて、初めて見るような気持ちで舞台に引き込まれた。



静かな海岸の町で起こる奇妙な事件


裸足でさまよっていた男は加瀬真治(浜田信也)。三日間行方不明だったという。妻の鳴海(内田慈)は様子が変わってしまった夫に戸惑う。初対面のように他人行儀で敬語で話す彼。もともと不仲だったが、それも忘れているよう。医師(盛隆二)の診断によると、脳に何らかの障害をきたしているらしい。

同じ頃、同じ町で、一家惨殺という物騒な事件が起こる。また、特定の概念を失い、それについて理解できなくなるという奇妙な病気も流行り出す。

海岸で真治に話しかけた男は桜井(安井順平)。ジャーナリスト。基地のあるこの町に、キナ臭さを嗅ぎつけてやって来たのだが、惨殺事件、奇病、そして真治のことを追っていくうちに、自分は“宇宙人”だという少年(大窪人衛)に出会う‥


‥と、こういう風に筋だけだと、突飛なもののように聞こえるかもしれないが、目の前で繰り広げられるストーリーは自然な流れで、背中にぞくっとくるような身近な恐怖。そして膝がかくっとくるような脱力のユーモアが時々あり。

セットは“白い八百屋舞台”のみ。あとは、テーブルや椅子くらい。暗転を繰り返し、シーンが変わると、病院になり、家の中になり、また海岸になったり。シンプルなセットでここまで場面が広がるのかと思った。


“宇宙人”は学習のため、人間から一つずつ概念を奪って自分のものにする。概念を一つ奪われた人間の側は、混乱を極めたり、はたまた逆に幸せになったり‥。
そのやりとりが異文化交流のようで滑稽にも見える。考えてみれば、人の思いや想念、概念など抽象的なものを、舞台上で描くのは挑戦的なことである。

そして、人間の真実にぐぅっと触れてくるラスト。ここは前回の観劇の時と同様にじ〜んときた。


役者たちも自然体の演技。内田慈の鳴海は、初めささくれだっていたのが、夫が変化するにつれて次第に柔らかくなっていき、浜田信也の真ちゃんは、ヤな奴から徐々に人間らしくなっていった。散歩ばかりしていたが、均整のとれた身体での歩行が意外にかっこよかった。

ジャーナリスト役の安井順平は、ワンテンポ置いた間の取り方や、抜け感がさすが相変わらず味があると思った。
できる医師役は白衣の盛隆二、世捨て人風な丸尾は森下創、途中で前回も同じ役だったことを思い出した。はまっている。
天野少年も前回と同じく永遠のティーンエイジャー大窪人衛が演じ、不気味さ健在。
鳴海の姉の明日美役は松岡依都美、しゃきしゃきした前半とは打って変わって、後半は神経を病んだような演技で、その夫役の板垣雄亮はシブかった。
丸尾の後輩役の栩原楽人は今風の若者が今風のしゃべり方で驚いたり焦ったりし、天野少年の相棒・立花あきら役の天野はなはケラケラ笑って得体の知れなさを出していた。

前回に私が観た2011年バージョンと、今回と、政治状況や世界情勢は変化しているのだが、前回は前回、今回は今回でお芝居をみていてぞわぞわした。


「解毒作用」といったのだが、毒されている現実に拮抗するほどの強い力を作品が持っているから、“解毒”と感じるくらい観客の心に届くのではないだろうか。とも感じた。(まぁ、この辺になるとイキウメ・ファンの独特の心理かもしれないけど)

シニカルでシリアスな筋運びの末に、なんと直球で胸が熱くなって、この世で起こっていることの引力や重力の法則を、イキウメの視点でまた観てみたい、と、解毒とともに回復力も得られたかんじ。


この公演の、約二週間後に、第52回紀伊國屋演劇賞の団体賞「イキウメ」受賞が決定(‘17.12/19)
「「天の敵」「散歩する侵略者」の優れた舞台成果に対して。」だそう。〜紀伊國屋書店HPより
めでたし。