ウェディング・シンガー

上半期に観たもう一つのミュージカルはこれです。
NHK朝ドラ「あまちゃん」人気で、80年代の日本の音楽が再び脚光を浴びていますよね。
こちらは、同じ80年代、洋楽の方に注目です。



ウェディング・シンガー

演出:山田和也
出演:井上芳雄 高橋愛 彩吹真央 大澄賢也 吉野圭吾 ちあきしん 徳垣友子 新納慎也 初風諄

日時:2013年3月24日(日) 12時〜
場所:博多座



〜'80sテイストの洋楽が彩るカラフルなミュージカル〜



もともとは1998年のアダム・サンドラードリュー・バリモア出演のアメリカ映画だそうだ。ロマンティック・コメディ。

ブコメといえば、お気楽に楽しむだけ〜という気分だが、私にはちょっとチェックポイントがある。主人公たちの幸せの影で、はじかれてしまう役の人がどうなるのか、というとこだ。

こういうジャンルの映画を見ていて、フラレたあの人はこの先どうするのかと、本筋から外れてずっと気になることがあるから。ラブコメって、そういう引き立て役が必ず登場しますよね。


けれどこのミュージカルの場合、その点はOKだった。
メインの登場人物は、結婚式場のバンドマン・ロビー(井上芳雄)、同じく式場のウェイトレス・ジュリア(高橋愛)、ジュリアの恋人・グレン(大澄賢也)。芳雄・ロビーはフィアンセ(徳垣友子)に逃げられ失意の底に落ち、そんな彼をジュリアが励ましているうちに、二人は惹かれあい‥という筋。

そうなると、邪魔者は大澄賢也扮するジュリアの恋人・グレンだが、彼の悪役(?)ぶりは余裕綽々だった。金の亡者の嫌味な社長。いつも忙しがっている。肩には携帯電話をぶら下げているヤな奴。(その携帯電話は、サッカーボールが入りそうな大きさの箱。80年代当時の最新式。)大澄賢也が、楽しみながらこの損な役を、それに徹してユーモラスに演じ、盤石。ここがこういう風に安定していると、観客は安心してヒーロー&ヒロインの恋の行方を追っていける。(これを“安心”と呼んでいいかどうかは措く。)もちろん、ダンスのうまさでも魅せる。


お話の舞台は結婚披露宴会場なので、賑やかだ。ステージは二層になっていて、上部にはこのミュージカルの本当のバンドが演奏している。下の部分でお話の中のウェディング・バンドが活躍。バンドはギター&ボーカル主役のロビー、ベースのサミー(吉野圭吾)、キーボードのジョージ(新納慎也)。

井上芳雄は、結婚式当日に相手にドタキャンされ自暴自棄になる三枚目の役で、本当に伸び伸び演じていた。“ミュージカル界の貴公子”と言われているが、ロックも歌えるし、やけくそにハジける時も気持ちよさそう。2年前「Triangle 2」を観た時も思ったが、彼は、ちゃきちゃきのべらんめぇ調の役もいけることを再認識(生粋の博多っ子でありながら)。もしかして、地はこういう人?と、ちらっと思ったりもした。一階席の後ろのドアから登場して、アコースティックギターの弾き語りでステージまで歩いて行くシーンがあり、なかなかやるなぁと思った。

ジュリア役の高橋愛。小柄で普通の女の子っぽい魅力。歌声もアイドル風で、だが伸びやかで声量もあり自然体でよかった。
ロビーの祖母・ロージー役の初風諄、元気(!)。
また、ジュリアの従妹ホリー役の彩吹真央が見事なダンスを披露し、映画「フラッシュ・ダンス」の一場面を再現したシーンでは笑ってしまった。

そういう具合に、出演者が一人一人個性的で役に合っていて楽しめた。ストーリーはアメリカ・ラブコメ特有の話の運びだけれども。


時代は1985年という設定だったので、音楽がもう全篇80年代チックでおかしかった。懐かしい。ヴァン・ヘイレンの“ジャンプ”風の曲、スパンダー・バレーの“トゥルー”風の曲などなど、ほら、あれとか。それとか。オマージュという名の、〜風、〜風の洋楽オンパレード。明るい曲が多いのに、郷愁のツボを押されたのだった。