まとめ*図書館的人生(上)

昨年12月に観たお芝居の感想です。楽しみにしていた舞台。

突然の衆議院解散で選挙の日と重なってしまった上演日。期日前投票を済ませてはいたけど気ぜわしかった。
しかし劇場は非日常空間なのでした。





『まとめ*図書館的人生(上)』


劇団「イキウメ」

作・演出:前川知大 
出演:浜田信也 盛 隆二 岩本幸子 伊勢佳世 森下 創 大窪人衛 加茂杏子 安井順平 菊池明明 西山聖了

日時:2012年12月16日(日)14時〜
場所:北九州芸術劇場 中劇場



〜ひとりひとりの人生は一冊の本に収められている〜



10年節目の舞台 シャッフル型の短編集


とても凝った舞台だった。だが、この劇団の持ち味はそのままで、純度が高かった。硬質で、しかも随所に笑いがある不思議な味わい。スッコーンと突き抜けているところがあり、観劇後は、日々の生活で鬱積していたものが解毒された気分。(そんな効能があることを発見できたのは今回の個人的な収穫。)

劇団結成10年を迎えた「イキウメ」。その活動の中で、短編集のような舞台「図書館的人生」はVol.1〜Vol.3と3作品上演されている。そのうちVol.3のみ観たことがあるのだが、4つの独立した話から成る舞台(登場人物が一人、二人重なっていたので連作短編集といえなくもない)、シニカルでユーモラスで、日常のお隣にある異空間を堪能できた。(観劇記録はhttp://d.hatena.ne.jp/chihiroro77/20110212/1297526970)

今回は“まとめ”とあるので、過去の3作品から選りすぐり短編いくつかが上演される、そう思っていた。


しかし。
その予想は外れた。いや、外れてはいないけどイメージが違った。
複数の短い話が順々に展開されるのではなく、それぞれの話の場面場面がシャッフルされ断片がつなぎつなぎ演じられて、一つの作品になっていたのだ。


舞台後方に天井まで届くほど高い本棚が4つ5つあり、側面をみせて並んでいる。この書架は可動式でシーンによって向きを変えたり場所が動いたりする。

その前方には大きな机が左側にひとつ、右側にもひとつ。セットはこれだけですっきりしている。(美術:土岐研一)


この図書館に一人の男が迷い込む。そこらへんにいる人たちに、受付の場所を聞くが誰も知らない。出口もわからない。書架に本を並べている人も職員ではなく利用者が適当にやっているだけ。男と一緒にこちらの気持ちも右往左往していると、左側の机に何人か座っていて、突然別の話が始まった様子。

その話が途中まで進むと、また違う話が始まり、そして中断され、場面は時折図書館に戻る。そして3つめの話が始まり、かと思うと一つめの話に戻り、4つめの話にいく、2つめに戻る‥という具合に(図書館の話は別として)6つの話を行きつ戻りつして舞台がすすむ。

背景に別の話の役者がいるので、初めは見づらく注意が散漫になってしまったが、次第に気にならなくなった。と同時に舞台にまとまりが出て勢いがついてきた。


それぞれの話は‥。
病院の一室に新薬の治験のため集まった人々が地震に襲われ、部屋ごと何処か全く違う空間に移動してしまう。全員標準語で話していたのに突発的に岩手弁になったりするが、それは前世と関係があるらしい‥といった話。また、自殺しようとする女性に対して、どうにかして魂だけ残したいという目的で接触する二人組の話や、秘密裏に開発した装置で、自分の前世や来世を“見物”する男たちの話‥などなど。



漂うただならぬ雰囲気と時々笑い声



人ひとりの人生は、一冊の本にまとめられている。それはこの世からあの世に向かう踊り場のような場所に並べられている。‥そういうモチーフがいくつかの話に共通していた。(「抜け穴の会議室」(☆)を思い出した。同じモチーフだった。)
人はどこから来てどこへ行くのか。そんな命題めいた気配が全篇を通しひたひたと漂っている。
だから恐いときもある。恐くても惹かれて舞台から目が離せないのだ。


出演者は10人のみ。その人数で6つ〜7つの話を演じるのだから、当然ひとり何役もやる。しかし、衣装‥というか洋服はほとんど変わらない。それぞれシャツとパンツ、或いはスカートのシンプルな装いのまま役を演じ分けていた。


舞台のセットも話によって大きく変わるのではなく、本棚や机が動くくらいの変化。
お話が変わる時も、暗転があるわけではない。Aの話を演じていた役者が、くるりと向きを変えてBの話の違う役を演じ始めることもある。
けれど不思議と混乱はなく(初めは戸惑ったが)同時進行のあの話この話の世界に入っていけた。


面白かったのは、美学を持って仕事に励んでいる万引きを生業とする男(安井順平)。
以前の「図書館的人生Vol.3」で一度みている話だったが、わかっていてもおかしかった。一方的に好きになった女の家に居候し、「俺と付き合え。」と平然と言い放つ時の力の抜け具合。また笑った。

6つの話のうちの5つもの話に出ていた浜田信也は大奮闘だった。喜怒哀楽の感情が、表情ではなく手足の伸縮に表われてしまう男の役では、体を張ってブラックジョークの熱演だった。


今回気づいたが、客席の笑い声が公演ごとに大きくなっている。私が初めてこの劇団の芝居を観た2,3年前は、会場内は、くすくすくす、という笑い声だった。それが回を追うごとに大きくなっている。わははは、となって次のセリフが聞こえなかったり、今回は、がはは、と大受けしている男の人もいた。
舞台と観客の息が合ってきたのかもしれないが、緊迫した空気の中でもユーモアを共有できるというのはいい。
ラストがほんわかと明るめなのもよかった。


前回公演「ミッション」より、ひたひたとした空気が強かったし、突き放していた分キレもあった。
前述した「人はどこから来てどこへ行くのか。」という命題めいた気配。
現代的で乾いたお芝居でありながら、そういう雰囲気を色濃く出す。これこそが彼らの舞台の身上ではないかとも思う。だからこそ、垢まみれの日常や定まらない世情の中で堆積していくものの解毒剤となりうるのだ。(と、これはあくまで私個人の処方箋だが。)


今回の公演は「まとめ*図書館的人生(上)」。「上」というからには「下」も予定されている。満席になってほしい。





☆「抜け穴の会議室」は作・演出の前川知大佐々木蔵之介主宰の“チーム申”に書き下ろした作品。