図書館的人生 Vol.3

前川知大のお芝居は今までに4つ観ましたが、どれも私にとって、はずれなし。

明日2月13日に大野城まどかぴあで、リンクシアターというイベントがある。
舞台(『奇ッ怪〜小泉八雲から聞いた話』)をビデオにとったものの上映会と、その後、前川氏と演劇評論家扇田昭彦さんのパネルトーク。楽しみ。



『図書館的人生Vol.3 食べもの連鎖〜食についての短編集〜』


       劇団:イキウメ  作・演出:前川知大 

       日時:2010年11月23日(火)18時〜

        場所:西鉄ホール(福岡)


〜ちょっと恐いけど親近感のある、不思議な重力の世界〜


 この舞台は4つのお話からできているが、長さ、重さ軽さ、テイストなどはそれぞれ異なっている。“食について”と銘打たれているが、それがメインテーマというわけではない。“食べもの”はひとつのきっかけで、そこから趣向の違うドラマが始まる。

菜食主義にハマった妻が、夫をその道へ誘導しようとする話。(#1話)
懸賞の稼ぎで暮らしている女の家に居候する、万引きで生計を立てている男の話。(#2話)
食事療法を極め不老不死の身体を得た男。(#3話)
など。


全篇に共通しているのは、ちょっと恐くてシニカルだけど、その中にある面白さ。ふっと力が抜けた時のユーモア。
たとえば、ドアを開けて隣の部屋へ入る。そこは何の変哲もない場所なのにどこか日常の重力とは違っているような感覚といおうか。この劇団のお芝居をみるのは2回目だが、その親密な空間は健在だった。
(以前みた「見えざるモノの生き残り」の感想はこちら→http://d.hatena.ne.jp/chihiroro77/20091231/1262262853


セットは、とてもシンプル、かつ洗練されている。舞台正面の奥、上方には、端から端までわたる太い板状のものが右肩上がりの傾斜で設置されている。その下は全面、黒い幕。その“右肩上がりの板“に、「#1 ‥‥‥」と“各章”のタイトルが光の文字で映し出される。#3話は、ある男の一代記めいたものだが、その時は「1895年」というように、その時々の年号が大写しされていた。(男は若く見えるが115歳なのだ。)


そして舞台上にあるのは、調理台4台のみ。可動式。最初の場面は料理教室だが、夫妻の居間のシーンになると、その台が動いて食卓となる。また、別の章では手術台に‥。そういう具合に最後まで、調理台が様々に変わっていくのを見るのも面白かった。(美術:土岐研一)


4つの話はどれも違った面白さがあったが、好みのシーンがあったという点では、2番目の話が印象的だった。


万引きを生業としている男・畑山(安井順平)。彼には職業上の美学がある。必要なものを必要なだけしか盗まない。
「万引きしたものは全部食べ切るのが常識でしょう。」 

懸賞で生計を立てている女・梅津楓(加茂杏子)に、自分と同じ匂いを感じ、一方的に言い放つ。
「俺と付き合え。」

 勝手な論理で、あっさりきっぱり言い切って、笑いを誘っていた。自分のポリシーを得々と語り、間をおいてあっけらかんと決めゼリフを言う。役者の持ち味もあるのだろうか、おかしかった。


この男の“職場”であるスーパーは、頻発する大量の窃盗被害のため、つぶれそうだという。それを知り義憤を感じた彼は、“犯人”たちを捕まえ諭そうとする。なぜ必要以上のものを盗もうとするのか、と。自分の考えの正しさを確かめるために、万引きマスター(森下創)に会いにも行く。
盗みのプロがお店を救うために奮闘するなんて。


好みのシーンというのは、このスーパー。レジが2〜3台並んでいる(元はといえば調理台)。買い物客たちは下に車のついたカゴを押してあれこれ選びつつ無言で動いている。カラカラとカゴを押す音だけが響く。その5,6人の動きが、無機質なダンスのようにも見える。
照明は暗めで、観客席からは万引き犯たちの動きがよくわかる。

「待てぇ!」店長(盛隆二)が犯人を見つけそうになる時は、ダンスは止まる。騒ぎが収まると、またダンス。
そんなシーンが2,3度あっただろうか。エキストラの買い物客たちは、他の章の出演者たち。
ただそれだけの場面だが、静と動が感じられて、心に残った。


俳優たちの演技も手堅く、安心して観ていられた。


#1話の妻・甘利香奈枝(岩本幸子)と夫・文雄(浜田信也)の綱引きは微妙なおかしみがあった。妻は菜食に相当入れ込んでいるのだが、声高に厳しく夫に勧めるわけではなく、料理上手な奥さん風で平静な態度。しかし、そこに潜んでいるエキセントリックなものを仄かに感じさせていた。

#1話の料理教室の講師・橋本和夫(板垣雄亮)が#3話の主人公。実年齢百歳を超えている彼を取材するのが、ライターの甘利文雄(#1話の夫)


#3話は一番ヘビーな話だった。高齢者所在不明事件などの時事ニュースを取り入れながら、食べもののタブーに触れそうな話だ。しかし、少々不気味な展開でもふとしたはずみで滑稽さがチラチラすぐ顔を覗かせている。不死身の若い身体を得た人間には、“死ねない”という悩みが生まれる。曰く「死にたいほど 健康」

 こんな人間離れした人間を自然に演じる役者はさすがだ。彼の妻役と妻と瓜二つの料理教室のパートナー役は同じ俳優(伊勢佳世)だったが、彼女も激しさとキュートさと振り幅の大きさを見せていた。



舞台は終始、ほどよい暗さと体温と湿度。
そう、湿度
完全にはドライではない適度なこの湿気はどう演出しているのだろう。
音量が控えめな感じのいい音楽も一役かっているのだろうか。(音楽:安東克人)
ぼわんとした救いが感じられる、タイトでいて居心地のいい舞台だった。

ちなみに、タイトルの「図書館的人生」の意味はわからずじまい。でも気にはならなかった。



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☆ 「図書館的人生 Vol.3」 http://www.ikiume.jp/koremade_11.html