見えざるモノの生き残り

2009年最後に観たのは、つい先週のこの舞台です。
かなり気に入ってしまいました♪


『見えざるモノの生き残り』 
        劇団:イキウメ  作・演出:前川知大 
        日時:2009年12月22日(火)19時〜
         場所:西鉄ホール(福岡)


〜人間のシアワセって・・? 今時の座敷童子が覗いてみたら〜   


前川知大はなかなかお勧めだ。2作品しか観ていないけど、そう思った。
彼が主宰し、作・演出を担当する劇団「イキウメ」の公演を初めて観た。
オカルトじゃない。ちょっと軸足をずらせば見えてくる世界。そのずらし方の匙加減がいい。


舞台上はコンクリートの地面で、後ろ半分は人が座れるくらいの高さになっている。そこには手すりもある。公園だろうか。
今時の、背骨がないようなひょろりとした若者が一人、強面の年配の男性にビンタを張られ、気合を入れられている。若者は自分が誰なのかどこにいるのかわからないらしい。二人で一緒に電車に乗るが周りの人には彼の姿が見えない。一体何の話なのか雲をつかむような気持ちでいると次第に明らかになってくる。強面男性は座敷童子のカナクラ[伽那蔵](板垣雄亮)。仲間もやってくる。おかっぱ頭で鞄を斜めにかけて男子学生風のタイコウチ[太鼓打](森下創)と、気のいいおじさん風のヒグラシ[日暮](有川マコト)。若者(窪田道聡)はナナフシ[七節]と名付けられる。死んだばかりで、座敷童子としては新人。カナクラたちによって研修が始まるところだった。

‥‥とこうくると、不思議な異次元の話のようだが、見ていると違和感なく自然に感じられる。童子たちがそこらへんにいる普通の人っぽくて、普通に喋っているからだろうか。現代の座敷童子は見た目の感じ良さも要求される。なにしろ面識のない人の家をノックし、お茶を一杯所望、そして上がり込んで話をつけないといけないのだから。チェックのシャツを重ね着し冴えない風貌ナナフシに、カナクラは命令する「なんだその格好は。ユニクロに行ってこい!」(ああ、「ユニクロ一人勝ち」。以前インターネットニュースで見かけた記事を思い出した。)


研修の一環として、タイコウチの成功例が披露される。梅沢鉄彦(盛隆二)・郁子(岩本幸子)夫妻の家に住み着いた時のことだ。やがてナナフシは、生きていた時は“タケオ[竹男]”という名だったことを思い出し、自分の“前世”を語り始める。不幸な生い立ち、無力で社会に放り出され、たまたま就職した会社の先輩・矢口(浜田信也)に連れられ、多額の借金を負う持田喜美(伊勢佳世)の部屋に取立てに行った時の話を。
梅沢夫妻の話と、タケオの短い人生、二つが代わる代わる舞台上で繰り広げられ、このお芝居の中心になっている。そう。メインは座敷童子の話、ではなく、童子が覗いた人間たちの話、なのだ。

梅沢家では、ダイニングテーブルが左側、ソファーがまん中奥、ドアが右側、持田さんの部屋はその反対で、テーブルが右側、ドアが左側。ドアといっても実際ドアはない。緑色の四角い枠のみ。シンプルですっきりしたセット。童子の姿はその家の住人にだけ見え、その他の人には見えない。いるのに見えない、その様が滑稽だ。
また、幸福な人にだけ見えるという“ケセランパサラン”。ふわふわと飛ぶその綿毛を追いかける登場人物。綿毛は観客には見えない。でも追いかけているその人だって、幸せなふりをしているだけで見えていないかもしれない。
“演劇”というお約束の中で生きてくるおかしさだと思う。
座敷童子のいる家には幸福がやってくるという。だが童子に願いを叶える力はない。「ね、シアワセにしてくれるんでしょ?!」梅沢さんの奥さんがいくら詰め寄っても、童子タイコウチにできることは見守ることだけ。人には言えない傷を抱える梅沢夫妻はそれでもシアワセになれるのか。
そのあたりは、じんわりじんわり変化していく。


客席に流れる音楽もどことなく不穏で、照明も暗め、話もブラックなんだけど、お芝居は温かい。クスリとさせられる。だが、媚びはない。湿っぽくもない。甘くもない。それでいて若くして犬死にしたタケオの悲惨な人生も、なんとなく救われる気がする。(ケロっとして言い付け通りユニクロに走る素直な子だ。)

座敷童子の先輩3人は大袈裟な演技ではないのに、一癖ある雰囲気が出ていた。女優陣二人も魅力的だった。夫の仕事をてきぱき手伝うキャリアウーマン主婦の梅沢・妻を演じていた人(岩本幸子)が、タケオの話の中では一転、ハチャメチャな母親役で登場して驚いた。


日常から地続きのちょっと向こう側のこんな舞台を、客席300〜400席のちょうどいい大きさのホールで、観劇できてよかった。
(同じ前川知大/作・演出の「狭き門より入れ」を秋に観た。佐々木蔵之介市川亀治郎出演。不気味な気配をたたえるパラレル・ワールドの話でとても面白かったが、2000席余りのホールで大き過ぎた。もっと小さいところで観たいと思っていた)


ところで、劇団名は少々おどろおどろしい。前知識がない人からは敬遠されてしまいがち。私自身も、観に行くのにちょっと構えてしまった。


それはさておき。
一年の終わりに気の合う友達と知り合いになれた。そんな気持ちになったお芝居だった。(まぁ、一方的なお友達ですが)