馬鹿やろう、そこは掘るな

『馬鹿やろう、そこは掘るな』 劇団:万能グローブ ガラパゴスダイナモ

               作・演出:川口大

               日時:2009年10月12日(祝・月)14時〜 場所:甘棠館Show劇場


〜心地よい、笑いのリズム  埋めるべきか、埋めざるべきか〜


会場は商店街の一角にある施設。60席くらいか。中に入ると、前方から右の壁全体が洞窟の壁のセットで、小ぢんまりした空間丸ごと、洞穴の中にいる気分。
地元のこの劇団を観るのは前作「ボスがイエスマン」に続いて2回目。
客席と舞台の境界がないような、近すぎる場所でいきなり芝居が始まり、初めはこちらが緊張した。けど、気づいたら、テンポのいいかけ合いや、そこからふっと息を抜くタイミングにのせられ、自然に笑っていた。前回同様、このリズムは楽しい。

結婚を控えた若いカップルの女は男に、ある物を埋める約束をさせる。男が過去の栄光を捨て、二人で新しい人生を歩み始めるために。彼・セイタロウ(どん太郎)は中学時代の秘密基地だったこの洞穴に、彼女・チヅル(古賀菜々絵)と共にやってくる。そこに埋める決意で。それを阻止しようとする者もいる。生活のために漫才をやめたセイタロウの、かつての相方、ジョニー(安部周平)。すると、突然、耳をつんざく別次元のハイテンションで、右後ろの洞窟の入り口から這って入ってきたパンツスーツ姿の女性・イマムラ(横山祐香里)。カップルのウェディングプランナー。

一方的にしゃべりまくる彼女の出現で、観る側の緊張は一気にとけて、あとは舞台のペースにのって行けた。以後ずっとイマムラはこのテンションの高さを保ち、しかも嫌味じゃなくおかしかった。

正式な披露宴の前に、思い出の地である洞穴で人前結婚式を行なうという計画で、セイタロウの中学の同級生ショウゴ(椎木樹人)、セキ(松野尾亮)、呼ばれてないのに新郎初恋の人パーコ(多田香織)やジョニーの現在の相方クジ(松田裕太郎)が登場。人が出たり入ったり、式準備にあれこれ手間取り、その間、こっそり埋めるの掘り返すので、やいのやいの。

初めは戸惑った舞台の近さだが、それゆえに親近感が生まれたし、出演者の表情もよく見えた。中学仲良し3人組は、悪ガキ時代が目に浮かび、自分は近所の知り合いのような気になった。

登場人物は一人一人はっきり輪郭を持ち、個性的に演じられていた。人がよくて優柔不断のセイタロウ(どん太郎:前作とは違う持ち味)に、結婚前のナーバスさ頑なさ全開のチヅル、迷い揺れながらも招待されていない式にちゃっかり現われる、お茶目なパーコ(セリフも聞き取りやすい)。脱力の笑いを一手に引き受けるジョニー・安部。ショウゴ役の椎木樹人は役からはみ出そうな片鱗が時折見えた。大柄で声も大きい。「お笑い、やめたんだ‥?」とセイタロウに詰め寄るシーンでは完全に目がすわっていた。「見てはいけないものを、見たっていうか。」というような何気ないセリフにも身構えさせる威力がある。(実際、構え過ぎて拍子抜けした) 

そしてやはり、みんな息が合っていて、セリフは今の若者の言葉。たとえば彼らの口調を借りて舞台を評すると、“今回も小道具も効いています的な、ドライブ感もありで、ちょっとほろりみたいな。”とかなんとか(ちょっと違ってたらすみません) 
こういう会話体なのに
「オレ、わかんなくなっちまった‥。」
“〜ちまった”と突然言われたらおかしい。初恋の人が現われ虚を突かれたセイタロウがふと洩らすセリフだ。
「ちょっとー!語尾おかしくなってるよー」すかさずパーコが指摘。
ちょっとしたところだったけど、ここで芝居の中は全篇、今現在の生の話し言葉だと改めて気づいた。そういうところも“リアル感っていうか、いいリズム感っていうか、あれであんなかんじで” 舞台の勢いに一役買っているのだろう。

結末は個人的には若干異論がないわけではないが、難しいこと抜きに、笑えて、面白かった、こう言えるのは、貴重なことなのかもしれない。なかなかなものだと思った。
劇団5周年を記念して一ケ月のロングラン公演に挑戦中ということである。