ダンス・オブ・ヴァンバイア

下書き一覧から、一番最近観た先週の博多座公演をアップします。
楽しかった!上に、記憶が新鮮なだけに長〜くなりました。。。。


ダンス オブ ヴァンパイア
 音楽:ジム・スタインマン 脚本・歌詞:ミヒャエル・クンツェ 追補:ジム・スタインマン
 演出:山田和也 
 日時:2009年9月22日(火・祝)17時〜  場所:博多座


ピアノ弾き語り 東宝ミュージカル ダンスオブヴァンパイア


〜ヒネリの効いたエンターテインメント。怖がらなくても大丈夫〜


ヴァンパイア、つまり吸血鬼。
笑える舞台、とは聞いていたが、それでもやはり、どんなおどろおどろしくハラハラする場面が待ち受けているかと警戒する気持ちもあった。
しかし、そんな心配は全く無用で、最後は客席も一緒に会場中、歌って踊って大合唱。
やっぱりミュージカルはこうでなきゃ。

ところは、あのトランシルバニア地方。人間の知識と叡智で、ヴァンパイアの恐怖から人々を救うことが使命だと自任するアブロンシウス教授(石川禅)と、彼の助手のアルフレート(泉見洋平)は森の中で迷子になる。吹雪の中、凍えながら一軒の宿にたどり着くが、そこでは村人たちが、にんにくを繋げて首飾りにし、歌い踊りお祭り騒ぎ。だが、伯爵の住む城のことを尋ねると、場は一転、誰もが口をつぐんでしまう。

宿の美しき一人娘サラ(Wキャスト・この回は大塚ちひろ)は、18歳。宿の主人シャガール安崎求)は心配性で、娘を部屋に閉じ込めがちだが、若い好奇心は我慢できない。すぐにアルフレートと心を通わすようになるが、もっと強い力で彼女を惹きつけるのは謎の城にいる伯爵の存在。ある日、使いの者クコール(駒田一)を通して舞踏会に招かれたサラは、城を目指して逃げ出していく。追っかけた父親だが、彼はヴァンパイアに血を吸われ動かなくなった姿で戻ってくる。
こうして遂に、教授と助手・アルフレートがサラを助けるため城に向かう。

果たしてミイラ取りは、ミイラ退治ができるのか、それとも…?


一幕目はシャガールの宿、二幕目は伯爵の城が舞台だが、いずれも大掛かりな装置でめくるめくように場面が変わり、目を奪われた。
歌よしダンスよし、コミカルな掛け合いもおかしいし、そんな中でも次はどうなるかという緊張感が常にあり、大仕掛けが空回りせず活きていた。

アンサンブルもいい。
冒頭、宿屋の広間で大勢の村人たちが、にんにくの素晴らしさを讃え歌い、陽気に踊るシーン。「ガーリック!ガーリック!」とハーモニーが楽しい。いくらヴァンパイアを追い払う重要な“武器”だといっても、にんにくひとつで、ここまで盛り上がれるとは、さすが。

その広間から回り舞台がゆっくり動き裏側になると、そこは宿の部屋。まん中にバスタブ。その右のドアを隔てて向こう側が教授と助手の部屋、左のドアを隔てて向こう側がサラの部屋。
サラは今日も、入浴禁止の言いつけを守らずバスタブにつかっている。お気に入りのスポンジに頬を寄せ、肩から腕、手にすべらせる。清潔感のある美しさだ。
すると突然、背後に巨大なこうもりが!城に住むクロロック伯爵(山口祐一郎)だ。黒や紺のシックな装いで、紅白歌合戦小林幸子さながらの迫力。つり下げられて動いたりもする。一歩踏み出せば自由な世界があると、サラに誘惑の言葉を残し、また突如消える。客席で私は「出た!」と叫びたくなった。


ヴァンパイアも人間も みんな生き生き


出演者は皆、持ち味を発揮し役を演じきっていたが、中でもサラ役の大塚ちひろの可憐さ、のびやかさに目をみはった。
高音まできれいに伸びていく歌声。“もっと自由に…もっと希望を…”と歌いあげる。
それから指先まで神経が行き届いたダンス。伯爵からプレゼントされた赤いブーツを履いて軽やかにバレリーナのように踊る。

その赤いブーツの足で、閉じ込められた部屋を抜け出し、誰もが恐れる伯爵の城に吸い寄せられるように駆けていく。束縛を振り切って。
禁じられていることには、いつだってドキドキワクワクするいけない匂いがするものだ。

城の舞踏会では、山口ヴァンパイア伯爵から贈られたワインレッドのドレスを身にまとう。少し大人びた様子だがキュート。

以前、舞台で観た“モーツァルト!”のコンスタンツェ役から、一皮も二皮も(?)剥けて、女性らしい輝きを増していて驚いた。
だが、あくまで純粋。この話は一歩間違えば下世話ないやらしい舞台になりそうなところだが、そうならなかったのは、彼女のピュアな魅力に負うところが大きいだろう。舞台の成否の鍵を握る重要な役どころだとも言える。

そして貫禄の山口ヴァンパイア。黒いマントをなびかせ、でかい。出番は多くないが、ここぞという時ド〜ンと登場する。もちろん巨大なだけではない。圧倒的な歌唱。ヴァンパイアの苦しい胸の内を歌う。数百年前の恋。またその百年後の恋。いつも愛した娘の血を吸っては死なせてしまう。恋すれば必ず恋した相手の命を奪ってしまうという悲劇。ヴァンパイアの宿命。愛したらなぜ奪いたくなるのか!そう激しく切々と魅惑の歌声で訴えられてもらい泣きしそうになった。それは人間界でも同じことだからだと思う。

教授役の石川禅。ミュージカル公演ではしょっちゅう目にする名前だがここまでメインの役をやっているのは初めて観て、驚いた。ひょうきんな役柄だが、早口言葉のように難しい固有名詞がびっしり出てくる歌を軽々と歌い、歌声を伸ばせば劇場の隅々3階席にまでゆうゆうと長く届く。演技では笑わせる。大した芸達者ぶりだった。

伯爵の息子役の吉野圭吾は、娘でなく男が好きなヴァンパイアを、妙な色気で軽妙に演じおかしかった。美しい生足をさらしアルフレートを誘惑しようとバレエ風に踊る場面が目に焼き付いてしまった。

宿の主人シャガールの浮気の相手にされる女中役のシルビア・グラブも、確かな歌唱と踊りで、主人を疎んじながらも完全には拒めない愛憎半ばする役をこなし、サラとは違った大人の女性の魅力があった。

ルフレート役の泉見洋平の歌は、地声のようなのだが、高音伸ばすところになると発声を変え、太くどこまでも広がる声になり力強い。大塚サラ・ちひろとのデュエットも初々しく息が合っていた。

お馴染み阿知波悟美シャガールの妻・レペッカ役。歌もダンスも演技も、余裕の古女房ぶりだ。


そしてフィナーレへ


二幕目のヴァンパイア伯爵の城は、楽しい幽霊屋敷というか、さらに規模の大きい仕掛けが惜しげもなく次々登場し贅沢だ。教授とアルフレートが寝ている部屋の床から天井から壁から、わらわらとヴァンパイアたちが現われ、妖しいダンスをたっぷり披露した後、また元の場所にするする消えていく、びっくり箱のような趣向もあり飽きさせない。

そこからミイラ取りの二人が城の奥に進むほど、綱引きの綱が強く引っ張られていく。
良識と悪との引っ張り合い。昼と夜のせめぎ合い。理性と快楽の闘い。血の味は蜜の味。

何の葛藤も感じず、無邪気に伯爵の元へ引きつけられていくサラを、二人は救えるのか。

どう落とし前がつけられるのか、見守っていると。
ラストは、そう来たか、と思った。
そう来るか。


音楽は親しみやすいメロディーで、主な2、3曲のサビのところはずっと耳に残っていた。これはミュージカルの舞台として強みだと思う。
今年1月に同じ会場で観た『ミス・サイゴン』は、歌、ダンス、装置などの美術、音楽etc..はとてもいいのに、話の筋にどうしても納得できず、やり切れない気持ちになったが、今回は、全てがうまくかみ合い劇場中が躍動感に包まれ、スカッとした。

2階席からの観劇は、ダイナミックな舞台の全体を堪能できたが、下の階は、出演者たちが何度も客席に降りていっていて羨ましかった。いつか1階席でもう一度観たい!と、それだけが心残りの博多座開場10周年記念公演ミュージカルだった。