『シング・ストリート 未来へのうた』
ジョン・カーニー脚本/監督
2015年/アイルランド、イギリス、アメリカ映画
〜1985年、ダブリンで〜
封切られたばかりの映画を先週、観に行った。ジョン・カーニー監督の作品。前作2作『ONCE ダブリンの街角で』(2006年)と、去年日本で公開された『はじまりのうた』は、両方とも、とても好きな映画だ。
だから、急いで観に行った。
そして案の定‥
観終わった後、パンフとサントラCDを購入。CDは毎日聴いている。やっぱりね。。(って、自分で自分の行動を予測してどうする・・)
1985年、不況下のアイルランド。14歳のコナー(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)は父親(エイダン・ギレン)の失業という家庭の経済的事情から、転校しなければならなくなる。新しい学校は荒れていて、転校生の彼は校長(ドン・ウィチャリー)にもいじめっ子(イアン・ケニー)にも目をつけられる。(パンフレットによると、学費の安い公立校への転校だったらしい)
そんなコナーの前に、自称“モデル”の年上の魅力的な女の子ラフィーナ(ルーシー・ボイントン)が現われる。彼はもう一目惚れ。バンドなんかやっていないくせに自分のバンドのプロモーション・ビデオ(PV)に出てくれないか、とアプローチする。
そしてその後、慌てて速攻でバンドを結成。
曲作り、街角でPV撮影‥‥少年たちは自分たちの音楽のために動き始める‥。が‥。
もう、80年代の音楽が懐かしい。
コナーが兄ブレイダン(ジャック・レイナー)と一緒にリビングでテレビを観ている。画面にはデュラン・デュランのPVが。
ほかに劇中に流れるのは、a-ha、ザ・ジャム‥etc.
このグループのこの曲、とはっきりわからなくても、あっ聞いたことある、というような歌が流れ続けている。
シンセサイザーのふぁんふぁんした音に、あぁ80年代だなぁという感慨。あれはDX7(または、DX7っぽい他のシンセ)の音か?
コナーたちのバンド「シング・ストリート」のオリジナル曲も、どれも魅力的で80年代テイスト。
彼らのPV撮影のファッションもいかにもそれ風で、微笑ましくもある。
だが、この映画は決して音楽マニアの映画ではない。
何て言えばいいのだろう。物語と音楽が自然に溶け合って、静かな深い力で訴えかけてくる。この監督の映画にいつも脈々と流れている何か。
そして今回もやはり、曲が生まれる瞬間、曲を作り上げていくシーンが好きだった。
コナーがひとり、部屋で思いついた歌詞の欠片、それを携えて彼はバンドメンバー・エイモン(マーク・マッケイナ)の家の扉をたたく。二人はギターを手に一緒に曲を作っていく。
また、兄ブレンダンの部屋もとても印象的だった。
コナーにとって兄は、よき理解者であり、ロックの師匠でもある。
彼の部屋には壁一面の棚にLPレコードがぎっしり。(CDでなくLPレコードです)
不仲で少々エキセントリックな両親による家庭内の不協和音、その影響をもろに受けやすいのが長男ブレンダン。壁一面のレコードは、彼にとっての心の砦のように思えた。
コナー役のフェルディア・ウォルシュ=ピーロを始め若い出演者たちは、これが長編映画初出演という俳優が多いらしい。みんな初々しく瑞々しい。
バンド「シング・ストリート」の音楽活動では、カセットレコーダーをカチャカチャ操作して、カセットに音を録る。
コナーがラフィーナに曲を聴いてもらうのも、カセットを封筒に入れて渡す、それが第一歩。
そこらへんの小道具にもくすぐられる。
でも、細部まで凝っているのに、押しつけがましくない。
コナーたちの毎日はどん底だけど、彼ら自身の音楽が少年たちを支えている。それが生き生きと、そして刺さるように伝わってくるので、観ている私たちの、掴みどころのない時代の掴みどころのない毎日も救われる思いがする。