海角七号

昨年観た映画の「追いかけ再生」第2弾‥
2016年10月鑑賞。


海角七号 君想う、国境の南』
ウェイ・ダーション脚本/監督
2008年/台湾


海角七号/君想う、国境の南 [DVD]


〜海岸のライブコンサートにまつわる物語〜


公開当時、台湾で大ヒットした映画。
時は現代、場所は台湾、日本統治時代の旧住所に宛てた配達不能の手紙、そのラブレターと現在の恋物語が交差する話‥チラシや今まで伝え聞いた評判から、何となく静かで穏やかな映画かと勝手にイメージを持っていた。

が、フタを開けると、とても賑やかな群像劇で、音楽物語でもあり。郷愁を感じさせるものでもあり。



<以下、物語の荒筋に触れていますので、ご注意を>

ひとりの若者がミュージシャンの夢破れて、台北から故郷の恒春に帰って来るところから物語は始まる。
彼の名はアガ(ファン・イーチェン・范逸臣)。

恒春は台湾南部の街。若い人たちは故郷を後にして台北に出稼ぎに行ってしまう、そういう街らしい。そこで、地域の起爆剤として、海岸で催される音楽ライブに地元バンドを急遽出演させるという話が持ち上がる。だが、そんな地元バンドなんていうものはなく、今から結成しないといけない。まずは、オーディションから‥。

ライブのまとめ役を請け負うことになるのが、日本人スタッフ友子(田中千絵)。

地元バンド出演、と言いだしたのは、恒春の現状を憂える議員でアガの父親(血は繋がっていない)。

主な登場人物はそんなかんじで、そのコンサートまでのハラハラな日々が、現在進行形で描かれるのだが、その過程で、エピソードのみでちらっと出て来た人たちにも次々に焦点が当てられていく。交通整理の係員、ホテルの部屋でタバコを喫っていた女性清掃員‥etc.脇役も主要人物へと引き上げられ、ひとりひとりの事情が明らかになっていくのは、ジグゾーパズルのピースがはまっていくよう。

ギター&ボーカルのアガを始め、バンドメンバーが次第に決まっていくのも、自分のことのように嬉しくなってくる。


そして、時折入るのが60年前の恋文の素朴な朗読。
それにより現在の場面ではまだ恋は始まっていないのに、何とはなしに萌芽が感じられ、物語に深みを与えている。

アガは故郷の街で郵便配達の仕事をすることになったのだが、郵便物に「海角七号」という今はもう存在しない宛先の手紙が7通あり、持て余した彼はそれを自分の部屋に置いておく。「海角七号」は日本統治下の台湾の住所で、手紙はある日本人男性からのものだったのだ‥。

ライブが行われる海岸や、郵便配達のバイクで巡る田舎町の風景の美しさ、それと対照的なリゾートホテルの近代美、北京語と台湾語(恒春では台湾語が話されているらしい)の威勢のよさ、登場人物たちの生き生きとした表情、何度か出てくる挿入歌「野ばら」(シューベルト)の情感‥ここでこの映画の美点をつらつらとあげることはできても、それらがスクリーンの中でどう紡がれているかは、う〜ん説明できない、やっぱり鑑賞する以外に手はなし。
数十年前の恋について、美化しノスタルジック過ぎるのでは‥というきらいがないわけではない。

が、映画全篇としては観終わった後に、強く余韻が残った。



主演の二人は瑞々しかった。

アガ役の青年、登場した時、松井稼頭央(現・楽天イーグルス)か、山田孝之かと思い、やっぱり松井稼頭央だと思いながら見ていた。かっこいいし、雰囲気があった。演じたファン・イーチェンは元々歌手で映画初出演だったとか(「海角七号」公式サイトより)。

異国の地・台湾で孤軍奮闘する日本人・友子役は田中千絵。この映画の出演によりその存在を世に知らしめた女優。ほとんど全て北京語での演技。感情を直球で表に出すのは日本人的ではなく、台湾仕様なのか、それともドラマの演技だから少々オーバーアクションになるのか。そのあたりが気になったりはしたんだけど、なのに輝いていて、きれいだったのはナゼ。ひたむきさが伝わってきた。


街の議員でアガの継父役の俳優は、サングラスをかけるとやくざみたいだが、ほろりとした優しさも見せ、味のある演技。公式サイトでは確認できなかったが、ウィキペディアによると馬如龍という人で、本作により2008年台湾金馬奨助演男優賞を受賞したらしい。

老若男女のバンドメンバーの面々もなかなか個性的だった。

歌手の中孝介が、コンサートの目玉の“日本人アーティスト”として、本人役で出演、60年前の手紙の書き手も演じていて、二役をこなしていた。