ボスがイエスマン

『ボスがイエスマン』 劇団:万能グローブ ガラパゴスダイナモ
           作・演出:川口大
           日時:2009年3月15日(日)19:00〜 場所:ぽんプラザホール


〜〜登場しない二人のボス〜〜


以前から気になっていた地元の劇団の公演を観ることができた。若さと躍動感あふれる舞台で理屈抜きに楽しめた。

会場に入ると、ステージ上には無造作に積まれた段ボール、イス、マネキンの胴体、自転車など。舞台に向かって右に非常扉(客席とステージが近いので、初めはその扉が舞台上のものだとは気付かなかった)。壁や段ボール箱はところどころペンキが塗られていてカラフル。

ここは、あるビルの地下の倉庫。そこに若者が3人、5人、7,8人と集まってくる。舞台向かって左上に1階の入り口があり(舞台上では2階)、そこから入ってきた人間は手すり越しに地下を見下ろせる。そして右側に消えていき地下の非常扉から倉庫に入場し姿を現わす。
三々五々集い始めた男女は、核心に触れず周辺細部でとても饒舌。冗談から冗談へリレーのように会話がつながっていき、可笑しい。笑いに巻き込まれているうちに、話は展開していき、彼らは同じタレント事務所に所属していて、社長への不満が爆発し事務所からの独立を秘密裡に企てている、という筋がみえてくる。新しいボスは、スタッフに親身だったマネージャーだという話だが、来る筈の彼がなかなか姿を現わさない、というあたりで疑心暗鬼が生まれ始める。しかし誰も言葉に出さない。その理由は、「口に出すとリアルになるっていうか‥」。だから相変わらず周辺部でわいわい。

ふとした一言で局面がガラリと変わり、誰が本当の仲間なのか、その人は本当はどんな人間なのかが試される。リトマス試験紙の色が変わるように本性が見える。尾崎豊、たばこの吸い方、グッピー、人数分足りないイスの数、マネージャーの手紙などの“小道具”が投入され、誰と誰のリトマス紙の色が変わるか客席の注目を集める‥。テンポのいいかけ合いと、疑いがたちこめる暗い雰囲気が度々移り変わり、役者たちもとても息が合っていて、それぞれ生き生きしていた。

中でも、「このままだと‥‥このままだ」‥どんづまりの状況下でこんなとぼけた台詞を吐く、ブックオフで終日立ち読みが日課の“木部ちゃん”(安部周平)が印象に残った。部外者であったが独立話に誘われ、“昨日と今日の区別がわからないような”毎日に決別するべく合流、ワンテンポずれた会話で脱力系の笑いを呼んでいた。また、彼を誘った“小出”(椎木樹人)も大柄な体で伸び伸び演じていた。(本当は悪い奴なのでは、と感じさせる場面もあったが、そうではなかった。だが悪い奴もできそう、という可能性を感じさせ、そういう役もみてみたい、と思わせた。)

そして、どケチ社長と温情派のマネージャーも印象に残る‥‥といっても、この二人は舞台に現れない。だが、あまりにも生々しく語られるため、彼らの人となりが目の前に浮かんでくる。

この手の芝居はジョークからジョークへのバトンタッチで話が進んでいき、その歯車が噛み合っているかどうかに舞台の成否がかかっていると思う。その点これは2時間という時間の長さを感じさせない仕上がり。また、登場してない人物や回想される出来事(伝説の飲み会)も、演じ手たちのお喋りでありありと想像できるところにも力を感じた。

ただ、あれ、と思ったのは、水川(眞島左妃)が小出を平手打ちするところ。美女が男をビンタ‥二人の間に何かあったのか、と勘繰りたくなったがそういう話ではなくちょっと拍子抜けした。あと、元は仲良しだった女性二人が、いがみ合っているが、その設定が少々あからさま過ぎる気がした。女性同士の感情はもう少し屈折しているものではないかというのが個人的感想だ。

本公演は、実績のある人物を「ドラマドクター」として迎え、アドバイスを受けながら作り上げたという(今回のドクターは土田英生氏)。初めて観る劇団だったので以前のものとは比較できないが、気持ちよく笑って劇場をあとにできた舞台だった。