エレジー

真冬ではなく、毎年春に風邪をひきやすい。登山でも事故が起こりやすいのは登るときでなく下山の方だ、というのを聞いたことがあります。
やっと風邪が抜けました。'09年上半期の半分(1月〜3月。4半期って言うの?)映画総括。3本だけですが。。。恋愛映画2本、ミュージカル1本。


恋愛映画 その1: 3月某日『エレジー

映画パンフレット 「エレジー」 監督 イザベル・コイシェ 出演 ペネロペ・クルス/ベン・キングズレー/デニス・ホッパー/パトリシア・クラークソン/ピーター・サースガード/デボラ・ハリー

〜息をのむ ぺネロぺの美しさ〜

死ぬまでにしたい10のこと』の監督の映画でもあったし、一度ぺネロぺを観てみたかったし、そういう興味でふらりと吸い寄せらせた。
そしたら、スキンヘッドの老教授の苦しい心の内にぴったり寄り添った映画だった。

TV・ラジオでも活躍する有名人大学教授デヴィッド(ベン・キングスレー)は、自由な恋愛、肉欲を否定しない快楽主義を標榜し、自らそれを実践する洒落たバツいち独身者。美女に弱く、ゼミの学生コンスエラ(ペネロペ・クルス)と恋に落ちる。年の差30。(贔屓目に見ても40は離れてるようだけど)

そこで彼は、初めて嫉妬心、独占欲にかられるという経験をする。会えない夜は猜疑心にさいなまれ、呼吸困難に。メディアで偉そうに説教をたれているいい年した文化人があわてふためいて、はたから見れば滑稽。でも何故か笑えず、好色老教授を軽蔑できず、それどころかそのおじさんの胸の内が伝染してきて、こちらまで息苦しくなり、ますます目が離せなくなった。

二人を取り巻く人間模様は、デヴィッドと同じ主義の悪友、作家のジョージ(デニス・ホッパー)、束縛し合わないという暗黙の約束で続いているデヴィッドの長年の恋人(パトリシア・クラークソン)、自分を捨てた父親を恨みながらも不倫の相談に来る医者の息子(ピーター・サースガード)。皆さんワケあり。

洋画観てると、あちらの住まいが素敵に見えるけど、この大学教授のアパートも何部屋あるんだろう、グランドピアノあり、ベッドルームあり、リビングにはお酒の瓶が並んでいて「何飲みたい?」と聞いてその場で作るあれが。ミニバーですか?あれはステータスなんだろうか。そして暗室まであり、ペネロペの美しいモノクロ写真がそこで現像される。

スペイン系キューバ移民のコンスエラ(ペネロペです)。黒髪に黒い瞳。その眼差しは一途で情熱的。見つめられたら男はたちどころに白旗(多分)。ロングヘアでも、ショートでも、前髪おろしても、エレガントなドレスでも、ラフなジーンズでも、そしてスクリーンいっぱいに惜し気もなくさらす一糸まとわぬ姿も、全て魅力的。コンスエラのひたむきさにデヴィッドは応えられず、次第に二人の距離は離れていき‥‥

死ぬまでにしたい10のこと』と同様に、ここでも“死に至る病”が重いテーマ。人には、切羽詰まらなければ気付かない大切なことが一体どれくらいあるのだろう。

登場人物たちのそれぞれの大人の事情が(至って世俗的な事情も多い)繊細に上品に染み入るように映像から伝わる。
海辺のデートのシーンと、おやすみなさいが言いたくてと、メールではなくて電話をかけるペネロペの甘く低めの声が耳に残って切ない。
全篇に滲む静かな情熱を味わいたい方にお勧め。


『エレジー』2008年/アメリ
原作:フィリップ・ロス著「ダイイング・アニマル」
監督:イサベル・コイシェ
出演:ペネロペ・クルス ベン・キングスレー デニス・ホッパー パトリシア・クラークソン ピーター・サースガード デボラ・ハリー

エレジー デラックス版 [DVD]