’08『アート』

昨年の印象的な舞台 Part.2

『アート』 劇団:アントン・クルー
      作:ヤスミナ・レザ  翻訳:道行千枝 演出:安永史明
      日時:2008年5月25日(日) 場所:西鉄ホール


〜〜「白い絵」が問う 男同士の友情とは〜〜


15年来の親友であるという、中年男3人組。セルジュ、マーク、イワン。ある日、セルジュが20万フランもする高価な絵画を購入したのが全ての始まり。自慢げにマークに披露した、その絵はまっ白。舞台真ん中に白いキャンバスが、どんと登場しただけ。(台詞のやりとりから絵には白い線が描かれているとわかるが。)理解しがたい珍妙な現代美術にマークは唖然。そのせいで二人の間に微妙な亀裂が生じ、彼らはもう一人の友人イワンを自分の味方にしようと動き始めるが‥‥

“20万フラン”は公演リーフレットによると「(今はユーロですね)‥‥(略)‥これなんか日本円でざっと500万円くらいでしょうか。」とある。仮に換算しないで20万円としても一枚の絵に対して充分お高い値段だ。少なくとも素人にはそう感じる。芸術か屑か。何のことない小競り合いがヒートアップしていき、相手の家族や恋人をけなしたり、生き方を非難したり、あの時実は頭に来てたなど過去のことまで掘り起こしたり。

出演者は3人のみ。現代アートが趣味で、ちょっと頑固な皮膚科医・セルジュに、これまた言い出したら強気を崩さない航空エンジニア・マーク。それと優柔不断でお人好しのイワン、会社員。若くはない男性3人が他愛のないことで右往左往し口喧嘩する様子が可笑しくて、くすくす笑いを誘う。3人の特徴が自然に演じられていた。ソファーとテーブルくらいのシンプルなセットの中で、白いだけの絵が縦にされたり横にされたりするのも、どっちでも同じで滑稽。

観ているうちに自分の友人たちのことを思い出していた。親友だと思っていたのに、あるきっかけでふと右と左に分かれてしまったことが今までに何回あっただろう。そう、この「白い絵」は友情の試金石だ。私の人生にもあなたの人生にも幾度も登場しているはずだ。舞台上のストーリーと、忘れていた自分の過去のほろ苦いエピソードがオーバーラップし始めていた。

みんなで食事に行くはずが、言い争いのせいでだめになったくだりがある。「今日、楽しみにしてたのにな」と漏らす3人のうちの誰か。彼らの関係は、日本の女子同士の友情と大差ない気がした。日本男児の場合はどうなんだろう。

こんな具合に、フランスの翻訳劇だが、外国ものだという違和感をあまり感じず、楽しめた。そして、自分を少し振り返った。

イワンの勤務先は、文房具会社。そのからみで出てくる小道具も効いている。