路上の偶然 Part1ダニエル・コフリン

Daniel Coughlin

予期せずばったり出会う音がある。

10日前の9月9日火曜のこと。
ところは、JR有楽町駅をふらりと降りて信号をひとつ渡った、国際フォーラムと呼ばれている2つの建物の中間の広場。

なぜ東京にいたかというと、例により観劇の虫を押さえられず東上、舞台みる以外は自由時間にしてうろうろする、という壮大でゼータクな計画のもと、うろうろしていた次第。



その広場を歩いていたら、宇多田ヒカルの曲が琴で奏でられているのが耳に入ってきた。

音を辿っていくとギリシア神話から抜け出てきたナルキッソスが、そこで琴を奏でていた‥というわけでは、もちろんなく、白い半袖の立襟シャツに黒いジーンズ、黒髪を肩まで伸ばした背の高い留学生がアコースティック・ギターを演奏していた。‥いや、“留学生”というのも単なる印象で、実際はそうではありませんでしたが。

足元に小さなホワイトボードがあり「ダニエル・コフリン 東京都」と記してある。路上ライブの許可証なのかな。


長い指で奏でられる曲は次々続く。澄んだ音色がそのあたりを支配していて、十数人が足を止めてじっと聴き入っている(ほぼ女性)。私も吸い寄せられるようにその仲間に加わる。

エコーがかかっていてビルや木々に反響している。普通聞くギターより高い音がかなり演奏されていて、シタールの音を思い出したりした。

一台のギターとは思えないくらい和音がじゃら〜ん、じゃらじゃら〜んと響いていたし、リズムもボディ叩いたりしているのか、打楽器の音が聞こえる気が。


アップテンポのものもいいし、ゆっくりの曲もいい。こんなに魅力的な音楽を繰り出す、この御仁は一体何者なのか?まず、女子なのか、男子なのか。曲の合間に見せる、にっこり無垢な笑顔。しばらく観察して、男性であるらしいということはわかった。


業界風の男の人が、彼に名刺を渡してCDを買っていっていた。1曲聴いて、即CD買っている人もいた。CD2,000円。私も財布の紐が弛みそうになったが、ただ今旅行中、荷物が重くなる、と、思い止まった。

足を止めて聴いている人の中には、サラリーマン風の男の人も2,3人。おじさんも。仕事中では?‥ちょうど、お昼休みなのかな。


あ、この曲は「戦場のメリー・クリスマス」。なつかし〜。季節感がちょっとずれるけど、いつ聴いてもいい曲。など思っていたら涙が出そうに‥。疲れているのか、自分。

アイルランドとか、ヨーロッパとか、パット・メセニーとか、はたまたアメリカのロード・ムービーのバックに流れてそうとか、脈略のない異国情緒の連想があちこち飛んだ。


ライブが終わった。30分くらいだっただろうか。
「よかったら、チラシ持っていってください。」彼の口から流暢な日本語が。意表を突かれた。日本在住が長いのかも?
天からの遣いでもなく、ギリシア神話からやって来たわけでもなかった。白昼夢から、すうぅっと現実に戻ってきたかんじで、ライブ予定がいくつか載っているチラシに目をやると、その一つに「12月6日(土)郡山(福島) ダニエルコフリン ふるさとライブ」とある。
福島出身? きょとん。


今、あの時CDを買わなかったことを後悔している。


<追伸>
その後、インターネットで検索 オフィシャルウェブサイトhttp://daniel-coughlin.jp/
     フェイスブック https://www.facebook.com/DanielCoughlinOfficial?fref=photo

オフィシャルウェブサイトによると、やはり福島県出身のアーティストでした。高校卒業の頃からアコースティックギターを独学で(!)始めて、今は東京で活動しているという。独学‥?! 素晴らしい♪

ギター演奏はめったに聴いたことがなかったが、引き込まれた。“ギター”だとは思えなかった。