サザエさん展

7月7日。七夕。豪雨。

最近、ニュース番組を見ていると、末期的な気分になってしまうのだが、今日は一日中、大雨のニュースだった。水不足は困るけれど、これも困る。台風も近付いてきているが、それてください、お手柔らかに。

昨日、行って来た展覧会。



サザエさん展ー長谷川町子とその時代ー

2014年5月20日〜7月13日@福岡市博物館  



7月6日(日)


前売り券を買って、そのうち行こうと思っていたら、会期があと一週間になっていて慌てて出かけた。

二階の展示場に向かう階段の踊り場、白い壁にサザエさん一家が黒い線で描かれている。ここでもう写真を撮ったりして遊園地に行くような気分。

会場に入ると、人が多い。雨がひどいのでそこまでの人出ではないかと思いきや、さすが日曜日、さすがサザエさん

最初に目に飛び込んで来たのは、作者・長谷川町子が、自分の生い立ちを、絵入りの文で綴ったもの。

「あれ、これは‥?」
「これは、確か『サザエさんうちあけ話』に載っていて‥」と私は一緒に来ていた学生時代からの友人に、いきなり解説を始める。
「うちにはサザエさんが全巻揃っとうと。」
そうなんです。サザエさんのみならず、エプロンおばさんも、意地悪ばあさんも全巻あり。
私は幼少の頃より長谷川町子を愛読して育ちました、と履歴書には書いたことはないが、何を隠そう、そうなんです。つきあいの長い友人もそれを知らなかった、ということに気づいた。そうか、読んでいたのは主に小学校の時やったけんね。

この2,3日前、昭和一桁生まれの父と、昭和二桁生まれの母が(あ、私も昭和二桁生まれだ)、一足先に展覧会を観に行っていた。長谷川町子全巻揃えた張本人はその母だった。

‥と、私のバックグラウンドはさておき、展覧会の話に戻ると、“絵入りの文で綴られた「生い立ち」”とは、たとえば、「とにかくえは、すきでした。2さいの頃からうちにいれば、片っぱしからかきつぶし‥」という文だったら、「え」「2さい」「うち」「かきつぶし」あたりにイラストが入っているもの。

今日、携帯メールの絵文字がこんなに隆盛をみている、その源流は、長谷川町子このイラスト入り文章にあり、と実は常日頃勝手に思っているのだが、その作品が会場の冒頭を飾っていたわけだ。

ちなみに『サザエさんうちあけ話』とは、長谷川町子による自伝かつエッセーのような一冊だ。



次のコーナーに進もうとするけれど、混んでいる。平成一桁生まれ、二桁生まれのおチビちゃんから、その親の世代、その親の世代、と年齢層は幅広い。

四コマ漫画の原画が充実していて、会場の大半を占めていた。漫画を小学生の女の子が読んで「ふふ」っと笑ったりしていて微笑ましかった。


他の展示は、長谷川町子のデビュー作、手がけた絵本、10代の頃のスケッチブック、書斎を再現したもの、趣味(といってもかなり本格的)の水彩画、油彩画、陶芸作品など。

飼い猫や犬がいなくなった時の、手描きの絵入りポスター「シャム猫さがしています」「犬をさがしています」に至っては、展示ガラスの向こう側にあるものとはいえ、とてもせつない気持ちになった。

昭和の風物詩を紹介するコーナーでは、氷で冷やすタイプの冷蔵庫やちゃぶ台などの現物が展示されていて、このあたりはさすが博物館。洗濯板とタライもあった。あと、お裁縫の時に使うネギ坊主のような形をしたあれや、着物を解体して生地を洗い干す時に使う大きい板も。(名称を失念)あ、これらの現物は、長谷川家のものではありませんでした。


会場を巡っていて、自分がにこにこしているのに気づいた。友だちもにこにこしていた。観終わって「あ〜面白かった」と言って去っていく親子連れもいた。サザエさんのアニメ世代くらいかな。

私の場合、展示されている漫画は全部知っていた。全巻読んで育ったのだから当然だ。でも改めて読んだのは久しぶりだった。何十回も繰り返し読んでいるのに、また読むと、くすっとおかしかった。


会場を出て物販コーナーもまた盛況。“幻の第一巻”と言われている本の復刻本を購入。1500円。これはB5判横とじで(「週刊誌を横とじにした型です」〜『サザエさんうちあけ話』より)、店頭に並べにくいということで2万部全部返品されたというエピソードが残されている。

開いて読んでみると、セリフが全部カタカナ。1947年(昭和22年)発行。「引き揚げ」「配給」「闇市」など、子どもの頃には読み過ごしていた単語がそこかしこに。発行当時、特にNGワードではなかったんだ、と思った。そしてどの漫画も面白くて一気に読んだ。すごいわね〜、戦後の時期に明るく前を向いていて、と、母親が漫画を評してちらっと口にしていた。

その後、ごそごそ探して、我が家のサザエさん第1巻を取り出した。B6判たて。後年出版しなおされたものだ。中はセリフがひらがなになっている。
本棚の、普段手をのばさないところを、かさこそ漁るのはちょっとドキドキする。なつかしくもあり、新鮮でもあった。昔の自分に遭遇しそうで、くすぐったい気もする。

自分にとってサザエさんは、そんな存在でもあることに気づいたりした。