ジャージー・ボーイズ@博多座 レビュー~その1

ちょうど一か月前に観たミュージカルの舞台。

このツアー公演も、今日と明日の神奈川公演で大千秋楽です。

 

レビュー、長文です。すみません。(ネタバレも少々あり)

 

 

ジャージー・ボーイズ

 

  

 

脚本:マーシャル・ブリックマン、リック・エリス

音楽:ボブ・ゴーディオ  詞:ボブ・クルー

翻訳:小田島恒志    訳詞:高橋亜子

演出:藤田俊太郎

音楽監督:島 健

振付:新海絵理子

美術:松井るみ

 

出演:チームBLACK~中川晃教藤岡正明、東 啓介、大山真志

加藤潤一、山路和弘、戸井勝海、綿引さやか、小此木麻里、遠藤瑠美子、ダンドイ舞莉花、大音智海、山野靖博、若松渓太、杉浦奎介、岡 施孜、宮島朋宏

 

〇日時:2022年11月10日(木) 12時~ 会場:博多座

〇日時:2022年11月12日(土) 17時~ 会場:博多座

 

 

~実録 ザ・フォーシーズンズ~

 

開演前のステージの様子は暗い照明のなか、うっすらわかる。奥の方は一段、二段と層になっていて、三階建ての断面のよう。床から垂直にステージ中央部に、その三階までの達する梯子のような階段がある。階段の左には街灯。舞台の左右の端にテレビモニターが縦、横ばらばらにいくつも重ねられていて、どの画面もカチンコらしきものの静止画像を映している。

 

ブザーは鳴らず客席の照明が落ちていき、ステージが明るくなるとそこに男女の若者たちの姿。リズミカルなピアノ和音で曲が始まり、フランス語のラップが奏でられる。左右のモニター画面も彼らの躍動する姿を映している。

「あれはオレたちの歌だ。」そう言いながらラフな出で立ちの男が現われる。オレたちの“Oh,What A Night”のフランス語版、2000年にパリで大ヒット、と。男はトミー(藤岡正明)。

ザ・フォーシーズンズのメンバー。オレたちの話を初めから聞きたいよね、ニュージャージー出身の男はそう言う。そして物語が始まる。

 

そう、1960~70年代に多くのヒット曲を生んだアメリカのヴォーカルグループ “ザ・フォーシーズンズ”。これは彼らのお話を基にしたミュージカルの舞台。

 

もともとはブロードウェイの作品で、クリント・イーストウッド監督により映画化もされているが、日本での公演は今回が3回め。私は初演(2016年)、再演(2018年)も観ているが、何回観ても、いきなり目が覚めるような冒頭から、紆余曲折を経て最後まで、ぎゅうっと持っていかれるような疾走感だった。

 

ザ・フォーシーズンズの曲は「シェリー」、「君の瞳に恋してる」と言われれば、誰もが、あ~、あれか、と思い、劇中の曲を聴くと、へ~これも彼らの曲だったのか、と、リアルタイムではヒットを知らなくても、耳に馴染みのあるナンバー多数。

 

このメンバー4人の音楽グループの“歴史”。グループ結成、地を這いずり回るような下積み、やがて栄光に辿り着くも、その陰で家族や恋人との行き違い、グループ内での小競り合いや軋轢、そして借金がらみの一大トラブル…。果たして再生の道はあるのか…??というようなストーリー。引き込まれる。

 

⁂「声」の挑戦 中川晃教 野性と技術

 

ザ・フォーシーズンズの曲を特徴づけているものの一つが、リードヴォーカルであるフランキー・ヴァリのハイトーン・ヴォイス。「シェリー」なんかで顕著ですよね。

 

このフランキー役を初演から担っているのが中川晃教(注:「推し」という言葉が出現する以前からのワタクシの「推し」である“あっきー”)。あの高音はトワングという発声法なんだとか。ファルセットより強い声だという印象を受ける。2016年から何公演歌いこなしてきたんだろう。あっきーとフランキーはより一体感を増したようだ…というか、一体化したかも??

別世界からのような高い声、時々口笛のような軽快な歌いっぷり、高音じゃなくて通常の(?)歌い方まで自在で、劇場を震わせるような歌唱(「君の瞳に恋してる」などの)も健在。

いつもながら、歌う時の顔がジャガーの遠吠えのようで、でも歌声は声量たっぷりで美しい。(ジャガーが本当に遠吠えをするのかどうかは知らないんですけど…)

 

紅色のシャツにうす緑のスラックス姿、天使の声を持つ華奢な16歳として舞台に登場し、それから、あれれ?という間にオトナになっていって、兄貴分として慕っていたトミーとの上下関係も微妙になっていく…

 

⁂四人四色

トミー

舞台は、グループの4人のメンバーが一人ずつ交代で語り部も務めながら進行していくが、そのトップバッターが、冒頭に紹介した藤岡正明扮するトミー・デヴィート。彼によると、ニュージャージーでの、楽とはいえない生活から抜け出す方法は三つ。「軍隊に行くこと、マフィアに入ること、スターになること」その三つめを選んだ彼は、音楽グループを作り活動を始めるのだが、まぁ、結構やんちゃで、軽犯罪を繰り返し刑務所を出たり入ったり。おまけに仲間内では自分がいつも上にいないと気がすまない性格。私は客席から身を乗り出して何度、彼の行動を止めに入ろうと思ったことか…。

藤岡トミーは、投げやりな話し方、演技も「地なのか?」と思うくらいワルっぽさ、時々子どもっぽさが板についている。が、歌は、声がとても太く響いて聴き入ってしまう。いつも変わらずいい。歌声と役柄のギャップが面白かった。

 

ボブ

次の語り部はボブ・ゴ―ディオ。曲も書き、グループのマネジメントもやろうとする人物。演じたのは東啓介。彼を見たのは初めてだったが、長い手足を持て余し気味なところがなんとなく微笑ましく、が、歌声には圧倒された。やはり太い歌声で安定感がある。セリフも聞き取りやすく、より物語の世界に入っていける感覚に。鼻持ちならない面もあるボブという役柄だが初々しさもあり、なかなか魅力的だった。十頭身だった。

 

ニック

三人めの語り部であり、第二幕初めに登場したのがニック・マッシ。演じたのは大山真志。彼を見たのも初めてだったが、とても個性的だった。ニックは一幕めではあまり目立たない役どころのはずが、少々ふっくらしていて、味のある挙動で独特の存在感だった。ニックは4人のコーラスでは、バスの音域の担当だが、歴代ニックのなかでは(つまりバスの声域のなかでは)ちょっと高めの歌声だったかんじがした。でも、ハーモニーは美しかった。いずれにしても舞台上にいるだけでなんか気になるユニークなニックだった。

 

フランキー

最後の語り部が、中川フランキー。先述の通り、あっきー=(イコール)フランキーと化したか??と思わせるほど。かと思えば立ち姿が時折マイケルを思わせ…(ファンの妄想)

後半、大人になったフランキーは家族のことで様々なつらい経験をするが、以前の公演よりその哀しみの度合が増した気がするのは、表現力か演出か、またはその相乗効果か?

 

初演、再演では、一人だったフランキー役だが、今回はダブルキャストが組まれ、花村想太が配役された。彼の出演の公演(チームGREEN)は観る機会がなかったが、ミュージック・フェアに出ていたのはばっちり観た。高音の歌唱も美しくてびっくり。あっきーの弟か?…と思うような似たかんじの歌い方や仕草が感じられたり、また一方、少しハスキーな声になったり。いつか彼の舞台も観てみたい。

 

四人の周辺

周りの俳優陣もこなれていた。

プロデューサーのボブ・クルー役の加藤潤一はコミカルな面を出しながら熱演。汗が光っていた。照明に反射して目も光っていた。

 

 

⁂回る舞台、歌声がふくらんでゆく生命体

 

赤裸々で綺麗ごとではすまされないストーリー。とても人間臭くて、ドロドロしていたり、ヒリヒリしたりハラハラしたりするのだが、数々のヒット曲の明るく軽やかでポップなメロディがそれを彩っているという落差。それを思うと曲が全部“天気雨”のように聞こえてくる。

 

華々しいステージの上部で、赤ちゃんを抱いている女性がゆっくり歩いているという場面が何回かあった。本当の家族vs.ツアーのファミリー、これを象徴しているシーンだ。ミュージシャンはツアーに出ると何か月も家を留守にする。それを巡るやりとり(というか喧嘩)はなかなか身につまされる。家族内の引力と、外に出たときの引力が相反するのは、大なり小なり世界共通か?そんな風に刺さるシーン、刺さるセリフの欠片があちらこちらに散りばめられていて、それが普遍性なんだと思う。ニュージャージー州のイタリア系の人々のお話なんだけれども。

 

作品は前半、回り舞台が多用される。が、後半である二幕めはそれは落ち着いて、反比例して楽曲がどんどんグレードアップしていく。ヒット曲が続く。フランキーが望んだようにホーンセクションも加わり厚みも増す。客席の拍手が、劇中の拍手と重なって、一種の「入れ子」感覚。

 

終わって劇場を出ても、そして何日かたっても、頭のなか、いえ身体のなかに音楽が巡って流れている。

 

パンデミック以降、約三年ぶりの観劇だったが、わかったことがある。舞台は現実逃避じゃない。そうじゃなくて別の角度から現実を照らしてくれるものだということ。そんなことを教えてくれた気がした。

 

そして、極私的に気に入っている踊りの振りの場面も、もう一回観られたのも嬉しかった。それは“Walk Like A Man”「ウォークラーイクアマーーン♪」の「マーーン」のところで、4人一斉に向かって右を向いて腕を後ろに15度くらい上げる。その腕が小さな羽ばたきの準備のように見えてキュートだ。私の心にストライクだった。