龍馬伝〜〜その3

龍馬伝』 NHK総合 日曜・夜8時〜8時45分


武市半平太篇……それでも声に出して真似たい土佐弁〜


平成22年7月11日、土佐の幼馴染み、クラスメート三人組から遂に脱落者が出てしまった。(第28回「武市の夢」2010.7.11放送)
‥‥本当は幕末1865年の出来事。

優等生の学級委員・武市半平太大森南朋)。
自然児の不思議くん・坂本龍馬福山雅治)。
泥まみれで奮闘しつつ何故だか笑いを誘う岩崎弥太郎香川照之)。

学級委員が切腹とは。
‥‥‥‥と、前回と同じことを、また言ってしまったがじゃ。


大森南朋武市半平太
身分の低い若い侍たちから絶大なる信頼を寄せられていた人徳者
日本を救うためには攘夷しかないと信じ、そのためには暗殺も繰り返す、手段を選ばない原理主義。(かと思えば、ちょっとした計画の狂いに動揺して立てなくなったりもする。)
年老いた祖母を思い江戸行きを諦め、また妻に対してはいつも温かく優しい夫である家庭人
振り子の振り幅は、相当大きいのに、それを感じさせないほど自然に全く力みなく“半平太”になっていた大森南朋


攘夷ぜよ!」 叫ぶシーンはたくさんあったはずだが、堅く強張った印象がない。迫力は人一倍ある。だが、怒っても、額に青筋が出ない。(しなやかなのか。実は肺活量がすごいのか。) 一重瞼に見えるやや腫れぼったい奥二重で、無表情な冷血人間にもなれる。岡田以蔵佐藤健)らを利用してテロ・暗殺を実行。
 そして、そこから大して表情を変えるということもせず、ほぼ同時に、温かく思いやりがあり誰からも慕われる人間・武市半平太にもなる。
 相反するものを平気な顔をして呑み込んでいる。暑苦しくない。
 大袈裟な演技ではないのに、葛藤や鬼気迫るものが伝わってくるのが不思議だ。


攘夷が失敗し、土佐に戻り失意の日々を送るが、そこで、香川照之の“弥太郎”にばったり再会するシーンが印象に残っている。

弥太郎、半平太の肩を揺り動かすの巻”(第21回「故郷の友よ」 2010年5月23日放送)


半平太 「弥太郎、なんで材木を引きゆう?」
弥太郎 「材木で商売をしゆうがじゃ」

下士といえども侍でありながら、商売を始めた弥太郎。土佐城下の道端でぼんやり城を眺めていた半平太。お互い腹を探り合うような皮肉めいた挨拶を交わす。以前は弥太郎を認めていなかった半平太だが、この頃は彼のような人間がいてもいいと思うようになったと口にする。

そこで、すかさず弥太郎。
「収二郎に切腹を命じたがは大殿さまじゃ!それでもまだ大殿さまを慕っちうがか?!」
土佐勤王党平井収二郎宮迫博之)は投獄され、切腹となった)
そして、半平太の肩をつかみ揺り動かす。
「半平太、わしのような人間がおってもええいうんじゃったら、おまえの好きなように生きたらどうじゃ?!
半平太、プルプルプルプル、かぶりを振る。「わしは、好きなように生きちう!! 」大殿さまのために‥云々‥と言葉を濁し行ってしまう。

毒づいた弥太郎の、言葉と裏腹の思いやる表情も見ものだったが(また「弥太郎篇」で詳しく)、半平太の慌てぶりもなかなかだった。心の奥を見透かされたのだ。彼は龍馬には洩らしていた。

「攘夷もできんやった。この上、大殿さままで信じられんやったら、わしは何を信じたらええんや?」
日本を守るという高い志を持ちながら、最後は藩主への疑念さえ自ら押し潰し忠義心を貫き通すことでしか侍としての矜持を保てなくなっていた。
少し枠からはずれてみようよ。生真面目な彼に弥太郎がかけた言葉は、心の隙間を直撃。虚を突かれ動揺が隠せず、誘惑を振り払うようにプルプルプル。


また、獄中のあのシーンも忘れられない。
“三つの団子の巻”(第25回「寺田屋の母」 2010年6月20日放送)


結局、武市半平太岡田以蔵も投獄され、下士である以蔵にだけ惨い拷問。どんな目に遭っても武市のために土佐勤王党による吉田東洋の暗殺を黙秘し続ける以蔵。

耐えられなくなった半平太は「これを以蔵に」と白い団子三つを弥太郎に託す。
牢屋から団子を差し出すそれだけだが、ただならぬ気配に涙が出そうになる。しかし美談ではなかった。毒団子だった。これを食わせて以蔵を楽にしてやってくれと。いつもと変わらぬ表情でぬけぬけと。腰を抜かす弥太郎。尋常ではないことを同じテンションでやってしまう大森・武市半平太に、却って空恐ろしいものを感じた。


友人の知り合いの歴史通の人によると、大殿さま・土佐藩主“山内容堂”は、自分が命じておきながら武市半平太切腹を悔やんだという説もあるそうだ。
150年余り後、ドラマの視聴者である私たちは別の意味で悔やむ。もう少し大森・半平太をみていたかった。温厚でありドライ、過激でありながら力みなく“抜けた”感じ。彼は極端な人間ではなく、今の世の中にもどこかにいそう、会社の中や組織の中で人知れず奮闘していそうな気がする。