龍馬伝〜〜その2

龍馬伝』 NHK総合 日曜・夜8時〜8時45分


〜“大殿さま”篇‥‥やっぱり声に出して真似たい土佐弁〜
第28回 2010.7.11放送「武市の夢」


土佐の幼馴染、クラスメート三人組から遂に脱落者が出てしてしまった。

優等生の学級委員・武市半平太(大森南朋)。
自然児の不思議くん・坂本龍馬(福山雅治)。
泥まみれで奮闘しつつ何故だが笑いを誘う岩崎弥太郎(香川照之)。


学級委員が切腹とは。


史実だからしょうがないけど。(といってもそれが“史実”だということをごく最近知りました。全くの歴史オンチなので。)
それはそれで史実に忠実なんでしょうけど、素人の私でも、ちょっとそういうことはありえないのではと思われる話が、ドラマには挟み込まれていることもある(半平太救出のための龍馬の立ち回りなど)。 しかしそれもこれも違和感なく受け入れられてしまうのはどういうわけだろう。

この回(第28回)でのひとつは、お殿様が護衛もつけず牢屋で罪人と話し込むところ。


土佐勤皇党を率いて攘夷実行のため京都に乗りこみ肩で風を切って歩いていた半平太だが、あっという間に形勢が変わり攘夷派は一掃され首謀者の彼は牢に入れられる。

「おまんとワシはよ〜う似いちう」
アル中気味の土佐藩主・山内容堂(近藤正臣)はひとりふらりと半平太の牢にやってくる。そして人払いをし、牢に入り込みどっかと地べたに座り込み、そう言い放った。
そして続ける。「徳川に失望しながらも、忠義心だけは捨てられん」ワシとて、ミカドを心から慕っている、とも。

「ははっ」 思いがけない大殿さまの言葉に床に額をつけんばかりにひれ伏す半平太。この期に及んでも今の私たちから見れば滑稽なまでの忠義心。


いくら何でも捕えられた人物と藩主とが牢の中で二人きりで言葉を交わすという場面は考えられない。(実際私は幕末期に旅したことがないので断言はできないが。) けれど、例によって薄暗い江戸時代にタイムスリップしたような映像で見せるせいか、ファンタジーには思えない。すんなり入ってくる。そして、ああそうだったのか、とハッとした。武市と山内容堂が似たもの同士だとは気付きもしなかった。むしろ正反対だと思っていた。


黒船が襲来し、開国しようと傾く幕府に危機感を抱き、それでは外国の植民地にされてしまう、「にっぽんを守るため」(“に”にアクセント)、開国反対、天皇の権威を強化し、外敵を打ち払うよう(攘夷実行)再三、土佐藩主・山内にも申入れてきた武市半平太だったが、そのたびに足蹴にされていた。
しかし、半平太は何があっても「全ては大殿さまのために」「これも大殿さまのためじゃ」「大殿さまに会わせてつかぁさい」「大殿さま」「大殿さま」‥‥ 教祖のような崇めぶり。嫌われているというのに。牢に入れられているというのに。

一方の“大殿さま”山内容堂“にしてみたら、土佐の領地は、祖先の山内一豊関ヶ原の戦いの功労として徳川家康から賜ったもの(歴史モノに疎い私ですが、このあたりのことは、以前の大河ドラマ功名が辻」でみてました。)。先祖代々の恩義がある幕府に歯向かうなどもってのほか。


しかし、“大殿さま”も揺れていたのだ。「徳川に失望しながらも、忠義心だけは捨てられん」あんなに疎んじていた武市に心情を吐露するとは。幕府に対して盲目的な忠義心ではなく周りが見えていただけに、アルコール摂取量が上がっていったのだろうか。


近藤正臣扮するこの人を食ったような“大殿さま”。足をふらつかせながらも盃をあおる、肩にクワガタかカブトムシだかをのせて側近の質問に知らん顔、茶の湯や美術品にも傾倒する、どこか得体の知れない一連のふらふらした行動が、このセリフで解き明かされたような気がした。(それまではただ随分変わったお殿さまだと思っていた)

藩主は幕府への忠義心を捨てられず、サムライ・武市半平太は命を賭けて藩主への忠義を貫こうとする。似たもの同士。そして、この恩義の連鎖にもうひとつ加えるなら、岡田以蔵佐藤健)。捨て犬が、しっぽを振って追いかけていくように、「武市センセイ」「武市センセイ」(最初の“セ”にアクセント) 武市への盲目的な信奉。人斬り実行犯として、いいように利用されたあげく、捕えられ何カ月も拷問を受ける。瀕死の中でも最期まで「武市センセイは、りっぱなお方じゃ‥‥。」…返す言葉がない。


武士の、こういう忠義・恩義の繋がりから、龍馬は少し離れたところにいたんだろう。


それにしても、暗殺された、田中泯の“吉田東洋”といい、藩主・近藤正臣の“山内容堂”といい、土佐のお城の中は、まっこと曲者ぞろいぜよ。