伊達の十役

二週間ちょっと前に観に行った歌舞伎の舞台。博多座で明日までです。


『慙紅葉汗顔見勢(はじもみじあせのかおみせ)』〜通称『伊達の十役(だてのじゅうやく)』

日時:2015年2月9日(月) 16時半〜
会場:博多座 


〜ほんとに一人でやってるの??〜


生で歌舞伎を観るのは人生・初。いつかは観たいと思っていたが、博多座の半額チケットに当たった。料金的にも敷居が高いものなので有り難いチャンス(それでも安くはないんですけどね)。

市川染五郎の一人十役。十役ってどういうこと??それは一人で十の役を演じることです‥
すごかった。面白かった。


事前に手に入れたA3二つ折りのチラシに(チラシというよりリーフレットか)、あらすじや人物関係が簡潔にまとめてあり、また幕開きに口上で染五郎自身が話の筋と十役の紹介を述べるという趣向もあり、初心者でもスムーズに歌舞伎の世界に入っていけた。

四世鶴屋南北作で仙台藩伊達家の御家騒動を題材にしたものだとか。劇中では「足利家」となっている。お家を転覆させようと目論む悪臣の一味と、それを阻止すべく働く忠臣たちのせめぎ合い。
「善」チームと「悪」チームが韓流歴史ドラマのようにはっきり分かれているので観る者にはわかりやすい。


チラシの謳い文句にはこうある。「染五郎が善悪男女十役に挑むスペクタクル大作!!」
そうなんです、いい人も悪い人も、男も女も、一人で演じてしまうんです。


演じ分けるだけでも、ほほ〜というかんじなのに、変わるのが早い!今、太夫をやっていたかと思ったら、もう忠臣役に早変わりしている。いつの間に?まだ太夫は舞台上にいるのに。。。え〜っと、太夫は今、後ろ向きになっているんですね。だから太夫・後ろ向きの時は染五郎さんじゃない誰かが演じているんでしょうね。いつの間に入れ替わったんでしょうね〜それとも染五郎さんは実は二人いるとか。双子だったとか。三つ子、四つ子‥かも。

この遊女は、高尾太夫市川染五郎)。当主・足利頼兼(市川染五郎)に身請けされるが、その身請けは悪臣の代表選手・仁木弾正(市川染五郎)の策略だったため、高尾太夫は忠臣・絹川与右衛門(市川染五郎)に殺される、とチラシには書いてあった。
市川染五郎太夫)が市川染五郎(忠臣)に殺されるって、一体どうやって‥??と思っていたが、このように太夫後ろ向き作戦が展開されたのであった。(でもいくら悪の策略だからといっても、罪のない高尾太夫まで殺さなくてもいいのにと思った。或いは私の知らない因縁が他にもあったのかも)


染五郎演じる善悪男女十人どれもよかったが、“女”で印象に残ったのは、高尾太夫の妹で与右衛門の妻・累の儚げな美しさ。そして、頼兼公の息子・鶴千代の乳人(おそらく乳母のこと)政岡。鶴千代を悪の一団から守るために、自分の子・千松を身代わりに死なせてしまう。幼君を守った我が子を「でかしゃった、でかしゃった。」と讃えながらも、つらく抑えきれない心情を吐露する場面の迫力。それも事が起こった直後ではなく、あたりに人がいなくなってからの独白で、余計胸に迫った。


“男”部門ではやっぱり悪役がインパクトがある。悪徳坊主の土手の道哲。坊主頭ではなく、髪の毛の上から縄で鉢巻をしている。アクが強い役だった。


休憩が2回入り、4時間を超える上演だったが長さは感じさせなかった。大まかにいって動、静、動の流れがあった。

「こ〜らいや!」「こ〜らいや!」
ここぞ、という時に客席から掛け声がかかる。(あとから“高麗屋”だと知る。)
掛け声がかかって、あ、今、染五郎が早変わりで登場した、と気づくこともたびたびあった。それぐらい「動」の部分では目まぐるしく変わった。

場面によって、舞台上手に三味線と唄の人がいたり、積み木のようなもので床を叩いて音を出す人が出てきたりした。



〜その秘密はふくらはぎにあり??〜


忠臣の一人・渡辺民部之助は、声がよく通ってメリハリがあり上手いなぁと思っていたら“尾上松也”とあった。(初めて観たのに演技の良し悪しをいうのはどうかと思うが、あくまでも素人目です)

また、頼兼公の息子・鶴千代がいる部屋に不穏な雰囲気で女たちが沢山現われる場面で、一際意地悪そうな人相の女・八汐。化粧ぶりで悪役だと一目でわかる。市川右近だった。案の定、コワ〜い女だった。


それにしても、歌舞伎俳優の肉体はどうなっているんだろう。
二階席の2列目の席からは、花道に登場する役者たちがよく見えた。染五郎の十役の中で、「絹川与右衛門」や「土手の道哲」は着物の裾が短めだ。彼ら(?)が裸足で花道を行き来する際の、白いふくらはぎの逞しさが目に焼き付いた。あれがしなやかさと強靭さを支える正体なのか。。


妖術が使える悪臣・仁木弾正(市川染五郎)が、花道の床下から現われ、ふわり宙に浮いて、足をカクカク動かし空中の階段を登り始めた時は、私たちの席に来るのかと思った。だがここ二階席を通り過ぎ三回席へ消えて行った。宙づりのロープは一体いつつけられたのか、気づかず初めは本当に宙に浮いたのかと。


一緒に行った友人(歌舞伎経験者)によると、今回の舞台は、歌舞伎を初めて観る人にはとってもいいよ〜とのこと。ああよかった、難解なものじゃなくて。衣装もとても綺麗で目を奪われるばかりなり。


このお話では、悪の一味はなぜ“悪”になったのか、ということはわからなかったのだけど、そのあたりも気になる。(もしかしたら、音声ガイドでは説明がされていたり、お話の前提として自明のことで私が知らないだけかもしれないが)
御家騒動、今の自分の周りや世の中を、このように描いたら一体どうなるだろうなどと、私の想像も博多座の天井か吊下げられるようにふわり宙を飛んだりした。