2011年 パ・リーグ クライマックス・シリーズ

去年のことを言うと鬼に笑われますが(?)、昨年アップできなかったものを更新していきたいと思います↓




2011年 パ・リーグ クライマックス・シリーズ



時は2011年。福岡ソフトバンクホークスvs埼玉西武ライオンズパ・リーグ クライマックス・シリーズ ファイナルステージ第2戦。@福岡ヤフードーム

両者譲らない展開。ソフトバンクわずか1点リードの8回裏。ホークスはじわじわと外堀を埋めていった。2アウトながら満塁。ここで代打だ。誰だ?
アナウンスがピンチヒッターを告げる前に、大型スクリーンにベンチ前で準備している赤いグローブの選手が映し出された。その途端、ごゎぁ〜っと球場3万5千人の歓声が突風のように起こった。松中選手だ。
この勝負、どうなる。歓声が重苦しい溜息や悲鳴に変わってしまうのか。いつかのように。
それとも‥


〜そもそもクライマックス・シリーズとは


まず、おさらい。日本のプロ野球は1リーグ6チームのみ。レギュラーシーズン144試合戦って順位を決める。でもって、それはそれでおいといて、も一回上位3チームで短期決戦をやり、勝ったところが日本シリーズへ。たとえレギュラーシーズンどんなにぶっちぎりで優勝しても、その決戦のたかだか一週間の期間に調子悪くて負けてしまえば一年間の努力が水の泡。天国から地獄へ。逆にギリギリ3位でも調子と運がよければ王者に。
だったら「アリとキリギリス」のアリはどうなる?いや別に短期戦で勝ち上がったチームがキリギリスだというわけでは全くないのですが。


で、くどいけど、短期決戦=クライマックス・シリーズ、やる必要ある?
やるメリットは、興行収入、消化試合が減るなど。だったらアリさんが割を食わない方法にすればいいのに。こんな博打みたいなやり方でなく。一位のチームが日本シリーズに行けないのは釈然としないでしょ?イソップの前提も崩れるし。

 そういうわけで迎えた2011年パシフィック・リーグ、クライマックス・シリーズ(略してCS)。原発事故を契機に、大量の電力消費が見直されているこのご時勢、CS今年はやりません、という選択肢もあったはず。公平さの面で元々問題あるシステムだし。けど中止案は聞かれることはなかった。


“じゃあ個人的な精神衛生上の方策として、試合を見ない、聞かない、行かないってのは?”
“いやぁ、それができれば楽なんだけどね。ホークスが勝つところは見たいもので。でも負けたら奈落の底に落とされるというところがリスキーで”‥自問自答。
‘04年にプレーオフ制度がいきなり始まって以来、ホークスは一度もこの短期戦を突破できていない。レギュラーシーズンでは3回も1位になっているのに。

「みんながチケット買わなければドームは空になるんだから、そうすれば。」これはうちの母親のクールなご意見。いやぁ、ごもっとも。不買運動ですか。ほんとにそこまで突き抜けられたら苦労はないんだけど。ましてやチケットが手に入るとなると行かなければ。そうなんです。入手できた人から譲ってもらい第2戦のチケットが私の手許に。行かなければ‥。こうして友人・知人・同僚たちに見送られ、まるで肝試しに行くように私はドームに乗り込んだわけである。



〜いざ、福岡ドーム



2011年11月4日(金) 18時〜 パ・リーグ クライマックス・シリーズ ファイナルステージ第2戦
福岡ソフトバンクホークスvs埼玉西武ライオンズ
球場は、レギュラーシーズン優勝のホークス本拠地である、福岡ヤフードーム

ここで問題が一つある。CSがプレイオフと呼ばれていた頃からいつも、ハラハラし過ぎて、テレビ中継でさえチラ見しかできないのに、果たして私は球場で正視できるんでしょうか。平常心を取り戻すためにいつものようにまず、お弁当と麒麟麦酒を調達。だけど買っている間に、1点リードを追い付かれ更に逆転されたところが、ドームコンコース内の中継テレビに映し出されていた。2回表。1−2でライオンズ1点リード。


席は三塁側外野。フェンスから割と近い。
眼前に広がる緑の芝生とダイヤモンド内に、選手たちが普段通りに散らばっている。
誰も震えたり怯えたりしていない。当たり前のようにプレーしている。(たとえ震えてたとしても外野からはわからないんですけどね)


三塁側といっても周りはほとんどホークスファン。チャンピオン・ブルーのレプリカユニフォームを身に纏っている人が多い。観客席はほぼ水色。
心なしか普段の試合より応援に気合が入っている。後ろの席の数名は職場仲間らしく、「チケットありがとうございます」と女性陣が口にし、パソコン3台駆使して券を手に入れたという男の人が笑顔でそれに応えている様子。隣は威勢のいい女の人。大声で声援を送ったり野次ったりしている。


先発投手はホークス・攝津、ライオンズ・岸。
ゲームは一進一退のじりじりした動き。拮抗する綱引きのよう。今シーズン圧倒的な強さでシーズン完全優勝を果たしたホークスだが、こういう緊迫した試合で打線を一気に爆発させるのはなかなか難しい。昨日の試合もそうだった。勝つには勝ったけど、どこかいつもとは違う硬さが感じられたような。対戦相手のライオンズは3位から勝ち上がって来たチーム。シーズン首位のホークスとのゲーム差は20.5ゲーム。それでも改めて試合するとなると簡単にはいかないのだ。(というかその前に、2位と17.5ゲーム差、3位と20ゲーム以上離れていて、日本シリーズに出られなかったらどうする?)


ライオンズファンは三塁外野スタンド後方の一角にのみ陣取っている。西武の攻撃の時は彼らの応援が孤軍奮闘のように響き、ソフトバンク攻撃時はドーム内360度がホークスに声援。
かつてはライオンズ戦では応援は半々、180度ずつだったというけれど。
西武ファンの応援は、女性の声の歌が印象的。いわゆる野球応援歌よりも現代風で、路上ライブの女性ボーカルっぽい。そして男性ボーカルと掛け合いになったりして。こういう場でなければ、しばらく聴いていたくなるような路上ライブ、いや外野席ライブだ。


そうこうしている間に、ホークスが綱引きの綱をぐぐぐと少しずつ強く引っ張り始めている。
2回の逆転の場面ではどうなるかと危ぶまれた攝津投手が、その後はきっちり締めている。そして6回裏の攻撃。1アウト3塁で、カブレラの打った球はレフトフライ。これが犠牲フライとなり同点。
また三振かと思ったけど、「カブレラ、よかったですね〜」と隣の女の人と声かけ合ったりした。彼女もレプリカユニフォーム着用だ。


更に松田のソロホームランで逆転。二選手とも打球が左翼側に、こちら側に向かって飛んできた。
これで3−2。しかし1点だけのリードでは安心できない。些細なきっかけでも勢いが向こう側に行ってしまう、短期決戦の恐ろしさを身にしみて思い知っている。選手も、ファンも、福岡ヤフードーム、この球場そのものも。私たちは気を緩めず成り行きを見守っている。



8回裏。ホークスはじわじわと外堀を埋めていった。2アウトながら満塁。ここで代打だ。誰だ?
アナウンスがピンチヒッターを告げる前に、大型スクリーンに、ベンチ前で準備している赤いグローブの選手が映し出された。その途端、ごゎぁ〜っと球場3万5千人の歓声が突風のように起こった。松中選手だ。正式に彼の名がコールされ再度歓声。打席に向かう。ここで、ライオンズのピッチャー交代。4人目牧田投手。右のサブマリン(アンダースロー)。シーズン後半は抑えとして活躍の新人投手。この対決はいかに。

歓声が重苦しい溜息や悲鳴に変わってしまうのか。いつかのように。
それとも‥



ピッチャー1球目、下手投げでふぅっと投げた。それに合わせてバッター素直にバットを振り切る。
すると打球はライト方向へさぁ〜っと伸びていく。レフトスタンドの私は球を見失った。
どうなんだ、どうなんだ。ファール?ファール?それとも?
一塁コーチが両手を広げている。ファール?いや、松中選手は両手を上げてゆっくり走り出している。ライトスタンドが湧きあがっている。ホームランだ。代打満塁ホームラン。ドーム内騒然。レフトスタンドも総立ちでお祭り騒ぎ。


この日そのまま7−2でホークスは勝利を収める。
胸につかえていたものがすうっと下りた。
短期戦に弱いと言われ続けていたチーム。特に主力選手はチャンスに打てないと責任を問われる立場。チームを応援しながらもファンは言いたいことを言うのである。
責めを負い続けてきたかつての4番打者が土壇場で放った満塁アーチ。CSという制度がこのドラマのお膳立てをしたというつもりは毛頭ないが、ライトへ飛んだ打球が自ら“呪縛”を解き放っていった。


翌日の試合でホークスは、延長の末、接戦を制し、8年ぶりの日本シリーズ進出を決めた。



   吉野鶏めし