真冬に‥夏の夜の夢

旧正月も過ぎましたが。
“2010年にみたもの、なるべくアップ強化月間”(努力目標)は続いています。

酷暑の夏にみて、ある劇評募集に応募したものでした。

観劇前に原作を読んでみて、やはり戯曲は舞台で演じられてこそのものだと思いました。よくわからなかったところが立体的につながる、というか。

あと、そんな話だっけ、と思うような箇所もあり、今思えばそれが演出や翻案ゆえのものだったのかもしれません。今さらながらですが。




『夏の夜の夢』
          〜福岡・九州地域演劇祭〜


          演出・・・・・・後藤 香
          原作・・・・・・ウィリアム・シェイクスピア(翻訳/坪内逍遥
          翻案・・・・・・川口大樹(万能グローブ ガラパゴスダイナモス)

          日時:2010年8月27日(金)19:30〜
          会場:ぽんプラザホール


〜3つ4つの恋のお話〜


ご存知シェイクスピアの楽しいお芝居。タイトルはよく聞くが、今回初めて舞台で観て、改めてそういう話だったのかと思った。


昔々のアテネの話。3つのパターンのカップルたちが出てくる。以下、登場順。

パターン1:結婚を控え、静かに待つ男女‥公爵シーシアスと、彼が少々強引な手を使い后に迎えるというアマゾン国の女王ヒポリタ。

パターン2:恋のさや当てにキリキリ舞いの若い男女‥快活な貴族の娘ハーミアに恋する二人の青年、ライサンダー(相思相愛)、ディミートリアス(父が決めた婚約者)。ディミートリアスに恋焦がれるハーミアの友人ヘレナ。

パターン3:長年連れ添った倦怠期のペア‥妖精の国の王オーベロンと女王タイターニア。女王がインドから連れてきた子どもを、王が所望したが彼女は譲らず仲違いとなる。まるでお互いのことよりも子どもやペットの方が大事な熟年夫婦のよう。(勝手な深読みだが)

腹を立てたオーベロンが、妖精パックに命じ「惚れ薬」を使って妻に腹いせのいたずら、ついでに悩める若者にもこの薬を1,2滴落としたため、話はややこしくなる。また、公爵の婚礼で披露する素人芝居のため、トンチンカンな稽古を重ねている職人たちも巻き込んで舞台は賑やかに進む。(賑やかだがもう少し間がほしいと感じる箇所もあった)


印象に残ったのはパターン1:ヒポリタ(坪内陽子)の落ち着きぶり。受身なだけでなく芯の強さが感じられる演技。「誰のためでも、何のためでもない。自分のしあわせのために生きるのはまちがいですか。」ゆっくり噛みしめるように言うこの言葉が心に響く。原作当時の封建社会ではどれほど重い意味をもっただろうかとも思った。

また妖精の女王タイターニア(濱崎留衣)も目を引いた。プライドが高くいかにも意地悪そうな女王を余裕綽々で演じているようにさえ見えた。この妖精の夫婦は(夫・オーベロン(彰田新平))ケンカの後、なぁなぁで仲直り。面白い味を出していた。

いたずら実行犯・妖精パック(杉山英美)のメリハリある身のこなし・演技もアクセントになっていた。「面白くなってきましたねぇ、ケケケ」と笑い、お調子者で可愛い。

残念だったのは若者たちの四角関係の結末がこの舞台では“目撃”できなかったこと。丸く収まったことは他の人の台詞でわかるのだが、媚薬のせいとはいえ罵り合い大喧嘩した者たちが、どう変化し修復したのか見せてくれないことには野次馬としては納得できない。食い足りなさが残った。

‥と、こういう好奇心で観てしまったが、これは原作の普遍性なのか、独自の演出の意図なのかわからないが、この古典戯曲が身近な話に思えて興味深く舞台を追った。


ステージ正面、お城の白いバルコニーから左右に階段があり、周りには本物の木々。すっきりしている。開演前には鳥のさえずりが。音楽・音響も涼やかで、衣裳もキュート。酷暑の中、しばし涼んでいたくなるような空間を造り出していた。