飛べ、ペンギン

]1月は、“2010年にみたもの、なるべくアップ強化月間”(努力目標)です。
第1弾は映画。



『飛べ、ペンギン』2010年9月25日(土) @あじびホール



〜辛口ほんわか 韓国映画 “ケンチャンナヨ”〜



「東アジア映画フェスタ2010」(アジアフォーカス・福岡国際映画祭協賛企画)で韓国映画を観た。早期教育や“雁おとうさん”、深夜まで塾で勉強する高校生がちらりと姿を見せたり、新聞や噂で耳にしていたことが実際にスクリーンに映し出されていた。まさに“今”生きている人たちの人間模様なのだろう。テーマ設定は現実的で辛辣だけど、映画の中の空気は鷹揚でユーモラス。素朴で暖かい余韻に浸れた。


あのムン・ソリが全くの一般人に


主人公は一人ではない。場面が変わると主役も変わるオムニバス形式。

チラシの写真に目をひかれた。
もしかしてムン・ソリ‥?

歴史TVドラマ「太王四神記」では火を司る“朱雀”の守り主、キハさま。
7,8年前、映画「オアシス」の演技で多くの注目を集め国際的な賞も受賞。(当時見損ない、未だ観てない)
“情念の女”‥そんなイメージを持っていたのだが。
果たして出演者のひとりはムン・ソリだった。


ファーストシーンは、クレヨンの童画が次々に現われ、かわいい。

そして、ショートヘアのムン・ソリが口をキッと結んだ教育ママとして登場。ベランダが広い素敵なマンション。息子(アン・ドギュ)は小学校低学年。小亀二匹とハムスターを飼っている。通っている塾は4〜5つ。右脳のためにバレエのレッスンまで。ママが一番やっきになっているのは英語教育。息子を将来は医者か弁護士にさせたいのだ。
家庭内を英語ONLY、韓国語禁止にしたり、様々なエピソードが滑稽。押しつけ過ぎの教育に夫(パク・ウォンサン)も呆れ顔だが、爆発させるわけでなく彼なりのやり方で対抗している。

こんなに口うるさい母親、或いは奥さんだったらたまらないが、サバサバしているせいか見ている分には嫌味ではない。

そんなムン・ソリ・ママ、市役所に出勤。自分のことを“おばさん”といい、家庭の愚痴などをこぼす普通の勤め人。こんなちょっとコミカルな役も違和感なくできるとは。彼女の新しい魅力を発見した(「太王四神記」しかみたことなかったので)。

場面はこの職場に移り、主役も交代、ムン・ソリは脇役へ。こういうふうにスライド式にメインキャストが替わる群像劇だ。



どこにでもある身に覚えがありそうな日常



どの話も身近で(国が違うにもかかわらず)、上映会場は笑いに包まれていた。話自体はハッピーエンドに向かいそうなものも、そうでないものもあるのだが。

市役所に新しく若者が二人入ってきて、職場にさざ波が起こる。
アフターファイブも連日連夜、部下たちを飲みに連れ歩くクォン・スヒョン課長(ソン・ビョンホ)は一人暮らしの“雁おとうさん”。
また、離婚の危機を迎えている高齢者夫婦も出てくる。



新人男性職員イ・ジュフン(チェ・ギュファン)は、職場の暗黙の掟(ここでは昼休みも飲み会も集団行動が基本)に外れがち。ベジタリアン青年。白い歯のさわやかな笑顔が、かえって“空気読めない奴”と思われているかんじを出していて、肩肘張らない演技に好感が持てた。

もう一人の新人、女性職員チョ・ミソン(チェ・ヒジン)にも小さな秘密がある。新入職員はどこの世界でも言ってみればちょっとした異分子なのかもしれない。



雁おとうさん”は、その存在だけは知っていた。韓国では中高生の子どもの海外留学に母親もついていく場合も増え、国に残り仕送りし続ける父親のことをいうらしい。“クォン課長”の奥さんも、娘と息子の留学先アメリカに滞在中。
映画の中の飲み会で、“おとうさんが雁だったら‥” “鷹だったら‥” “ペンギンだったら‥”と話す場面があり、そこらへんからタイトルにつながっているようだ。

ここまで教育に力を入れているからこそ国際競争の世界で韓国が台頭してきているのだろうか。恐るべし、と感じると同時に、“課長”の雁おとうさんにとって、これが現実ならあんまりだと思った。



そして、いがみ合う熟年夫婦。
妻(チョン・ヘソン)はダンスやら何やら趣味は多彩でつきあいも広い。それに対し、夫(パク・イヌァン)は退職後、特にすることもなく引きこもりがちで、威張り散らす姿勢は昔のまま。妻が友人たちと食事をして家庭の不満を言い合うシーン、また同様に夫も夫で仲間たちと会食しながら愚痴を言うシーンには、一番笑い声が上がっていた。

この夫婦も住まいは立派なマンションのようだが、親近感を抱いたのは、リビング・ルーム。
豪華なソファーの応接セットが置いてあるのだが、夫はソファーに座らず、床に腰をおろし、テーブル上の碁盤で碁を打っている。ソファーを背もたれにして。また、食事の時もテーブルに食器を置いて床に座って食べている。日本でも同じことをしている家庭がごまんといるだろう。お宅もそうでしょう?お隣の国と妙なところで和洋折衷(?)の共通点があったものだ。



終わりに監督や俳優の名前が流れる時の、バックのシーンも好きだったし、習った韓国語「ケンチャンナヨ」という言葉がまん中あたりで出てきたのが嬉しかった(ムン・ソリ夫の口から)。 “大丈夫だよ”という意味で、韓国人は大好きでよく使う、と聞いた。こういうふうに使うのかと思った。映画全体の雰囲気を表している、と思った。


ロードショーなどで派手に公開されるタイプの映画ではないが、カメラアングルも低めに、日常の大波小波が温かく写されていて、やわらかい語り口ながら底力も感じた。



『飛べ、ペンギン』2009年/韓国 監督:イム・スル
                    出演:ムン・ソリ  チェ・ギュファン  パク・イヌァン  

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