サ・ビ・タ

韓国語を習い始めましたが、やっぱり新しい文字は難しい!
2月に観た舞台、楽しかったです。
(レビューがこんなに遅くなりましたが。あたため過ぎ…)



『サ・ビ・タ〜雨が運んだ愛〜』


   脚本:オ・ウンヒ 音楽:チェ・ギッソプ
   日本語版台本・訳詞・演出: 中島淳彦
   日時:2010年2月28日(日) 2時〜
   場所:大野城まどかぴあ(福岡)


〜魅力的な3人組の等身大ミュージカル・・・取り扱い注意の“家族愛”〜


韓国で10年以上ロングランを続けたミュージカルの日本版。再演である。
ストーリーはシンプル。数年間疎遠だった兄弟が再会し、ぶつかりあいながらも、お互いを認め合おうとする。そこに全くお呼びでない不思議な女の子が登場し絡んだりする。韓国ドラマにありがちな“出生の秘密”やドロドロの展開など一切なし。
ただそれだけの話なのだが、テーマが身近なだけに、胸にちくりとくるものがある。
ちくちく感じながらも、手拍子したくなるような音楽や歌で、個性的で親しみのある出演者3人が繰り出す明るいエネルギーに満ちた舞台を、安心して楽しむことができる。


開演前。会場に流れる軽快なKポップ。ステージは薄暗く、ガーリッシュでおしゃれな雑貨屋さんのように雑然としている。薄赤い舞台に両脇に立っている細長い緑色の棒がアクセントカラー。舞台の上方にかかっている布には、左端から右端いっぱいに音符が踊っている。これも緑色。ラメ入りだ。

ステージが明るくなる。そこはアパートの一室。奥にガラス戸。左右に台があり、写真立てや植木鉢が並べられている。後にこの台はピアノだ!と判明。ピアノが2台だ。舞台を横断して物干し紐がかけられていて、万国旗のようにTシャツや下着が干してある。とてもカラフル。まん中あたりにテーブルと椅子が数脚。(美術:加藤ちか)


エプロン姿のおじさん風の男が、あちこちにせわしなく電話をかけている。こんな大事な日にどうして帰ってこないんだい?と。どうやら両親は既にいなくて兄であるこの男ドンウク(駒田一)が母親役のよう。「この間持たせたキムチ、まだあるかい?もうなくなっているんじゃないかい?」そう家族たちに聞いているのにどの電話も途中で切られる。疎まれている様子。

そして背後から迷彩服を着た若い男が侵入してくる。怪しい動き。空き巣か?  なんと何年間も音信不通だった弟ドンヒョン(山崎育三郎)


そこから兄弟の葛藤、言い合い、罵り合いの始まり。‥といってもケンカも“歌”でやり合うのだから楽しい。「相変わらずだね」というナンバー。弟“あれはこうしろ、兄貴のうるさい小言、うんざりする小言‥”♪ それに対して“兄の気持ちわからないのか‥”♪ という「兄弟」デュエット。歌声の質が似ているのか、ハモりの部分は調和がとれてきれいだ。

この険悪な兄弟喧嘩に割り込む、思わぬ闖入者は‥ユ・ミリ(原田夏希
かわいい!ウェストがキュッとしまって、そこから45度に広がるミニスカート。白地に黒の水玉。トップスは赤で肩を露出。同じ赤のタイツと髪飾りに大きなリボン。
「ご結婚、おめでとうございます」 はぁ? パーティ会社から訪問先を間違えここに到着したらしい。


ここから三者三様に気持ち・悩みが入り交じる。
このこんがらがった兄弟は、家族は、一体どう転がっていくのか。悲劇にも喜劇にもなりうるが、ステージや衣装、音楽のポップさから、どす黒いことにはならないだろう、とそこらへんに予測の安全ラインをひきながらも、あんまり底抜けに明るい結末もなぁ、と舞台上のストーリーと自分の想像・思惑が追いつ追われつ。


兄貴から逃れたくて、みんな離れていったんじゃないか!」弟は怒鳴る。姉妹たちは口うるさい兄を嫌い嫁ぎ先や仕事に逃避(芝居冒頭で電話を途中で切っていた)。 兄とて、兄弟姉妹を思えばこその世話焼き・お節介で‥。こういう家族への世話・心配‥この重しを誰がどう担うかで、家族愛にもなれば、家族病理にもなる。背中あわせ。どこの家庭にもある火種。


普通、母親がこの家族の重しを背負っている世の中だが、ここではそれは兄の役目。
兄・ドンウク役の駒田一は、三角巾を思わせるバンダナを頭に巻いてエプロン姿。料理したり、女物の下着の洗濯もの取り込んで、オロオロしたり、本人にしたら深刻な問題を抱えているけれど、ユーモラス。そして歌がうまく安定している。

兄に反抗して家出した弟役の山崎育三郎。家に戻って来た時の迷彩服姿もすれたかんじでよかったが、雨に濡れているからと着替えた花柄のムームーのようなワンピース姿。中身は突っ張っているのにアンバランスで、奇妙な魅力があった。歌も踊りも達者。

それもそのはず、後でパンフレットを見たら、“兄弟”とも、納得の経歴。しかし3人しか登場人物がいない今回のステージでは、きっと今までの舞台と違う顔を見せていたに違いない。

キュートな不思議少女、ユ・ミリ役の原田夏希。手足が長くのびやか。朝のドラマ「わかば」のイメージとは全然違う。失敗ばかりの毎日で瀬戸際にいるというものの浮世離れしたコスチュームのせいか切実感なく、悩んでいても天真爛漫。歌もバラエティのある何曲かをこなしていた。高音が不安定なところもあったが初々しく、演技も含め好感が持てた。


なぜ今日仕事が休みなのかで兄は言葉を濁す。弟は、自分の右手を変なかばい方をする。それぞれの隠し事の謎解きがあり、そして2台のピアノの出番。兄弟のジャズピアノ・デュオ。歌だけでなくピアノ演奏もあるなんて意表をつかれた。よかった。
お話の着地点は、白黒はっきりつけるわけでなく、甘過ぎるわけでなく。雨がやがてやむように自然にまかされたような。


‥とここまで来て、はたと気付いた。ちょっと待て。これは、いくらお隣とはいえ外国の話のはず。違和感ないぞ。万国共通なのか、それともお隣の国と家族文化が同じなのか。‥う〜ん、よくわからないけど、とにかく取り扱い注意の“家族愛”またの名を“重し”はたまた“火種”が暴発せずに、楽しい舞台でよかった。ただ温かいだけでなく、すれすれのところをいっていると思う。

カーテンコールでは毎回、来場者の家族へのメッセージが披露される仕掛け。これも一歩間違えば単なる家族自慢になるすれすれのところ。この日はお芝居の弾んだ余韻の中でうまく紹介されていた。


大舞台のミュージカルもいいけど、身近なテーマのこういう等身大のミュージカルも素敵だ。そう思わせてくれる舞台だった。