其礼成心中

先週、ひっさびさ〜に文楽を鑑賞しました。


『其礼成心中(それなりしんじゅう)』


       


博多座プレゼンツ パルコ・プロデュース公演 
三谷文楽 in 博多

作・演出:三谷幸喜 
作曲:鶴澤清介  美術:堀尾幸男

日時:2018年8月17日(金)15時半〜
場所:博多座


文楽は2回ほど観たことがある。何十年前に1回と、十年以上前に1回。
三味線と語り、そして人形(‥ほんとに人形?と思うような人形離れしている人形)が作り出す世界にはとても惹かれた。でも、あまり鑑賞する機会はなく。

なので、久しぶりの文楽鑑賞、楽しみ。
加えて今回は、三谷幸喜の作品。ひとひねり違った何かがあるに違いない。

‥などと思いつつ、緑、オレンジ、黒の縦縞の幕を眺めながら、客席で開演を待つ。(歌舞伎の時にも使われているあの幕、定式幕(じょうしきまく)というのですね。)

すると、その幕の前に、するすると三谷幸喜本人が登場!‥と思ったら、お人形でした。本人そっくり。黒衣を従えていました。ユーモラスな口上があり、開幕。


  ←こんなお人形が登場。本人と見紛うばかり。


舞台は、文楽用の特別なものではなく、普通の平舞台だった。
舞台奥に高い段があり、太夫、三味線軍団が3〜4人横に並んでいる。段は自動で動き、左右に引っこんだり出てきたり、人員交替が行われていた。


初めに登場したのは美男美女(の人形)。背景は森。「此の世の名残夜も名残り、‥」と近松門左衛門曽根崎心中の冒頭が語られる。男女は心中しようとしているらしい。美しい文楽的世界‥。が、そこへ「ちょい待ち!」という声。饅頭屋の主人・半兵衛だ。(上掲の写真、三谷さんの左が半兵衛さん)

元禄16年、大阪では近松の『曽根崎心中』の大ヒットで心中がブームとなり、曽根崎の天神の森は心中のメッカとなってしまった。森の外れで饅頭屋を営む半兵衛は商売あがったり。縁起が悪い場所だと客足が遠のいてしまったのだ。そこで、これ以上、心中カップルが出ないように、森をパトロールしているという‥

‥と、コミカルな出だし。


人形は、自分のイメージより大きかった。背後の黒衣の肩くらい。一人(?)の人形の両脇と後ろに3つの黒い山がついてまわる‥そう、“黒い山”と見えるくらい、人形遣いの方は全身真っ黒、顔も黒い布で覆われている。“三人遣い”ということで、3人で1つの人形を操作。人間が操っているとわかっていても、見ていると、人形が自然に動いていて“黒い山”がついてくるようで、そして次第に“黒い山”も気にならなくなってくる。


お調子者の半兵衛に対して、彼の妻のおかつは、しゃきしゃきしている。二人は、心中を考えている人々を相手に人生相談を始め、これが受けて大繁盛。閑古鳥が飛んでいたのに(実際に飛んでいた)、今度はミラーボールが出てくる始末。が、しかし、商売上のライバルが現われ、また饅頭屋は傾き始めて‥


セリフは全て太夫の語り。セリフだけでなく、ト書き風な言葉も全部、あの独特な節回し。現代作家によるこういう喜劇が太夫により語られるのは新鮮。


それにしても。
すごい。
彼ら彼女らは人形じゃない。
人形じゃなくて、頭が小さい新しい人類なのでは。(最近の若い人は頭が小さい人が多いから、進化していったらこうなるのかも。身なりは江戸だけど)
で、黒衣や囃子の人々の方が、頭が一回り大きい旧人類‥。(私も含めて)
‥と思ってしまうほど、人形が人間になっていた。

文楽の技術に感服。


笑って、ハラハラして、また笑って、カーテンコールでは、人形遣いの方々が顔を出して、人形を片手に登場した。お若い方が多いようにお見受けした。

この作品の初演は2012年で、今年は静岡と福岡での上演。


歌舞伎でも、宮藤宮九郎が脚本を書いた演し物や、コミックが原作の「ワンピース」などの演目があるけれど、文楽も、伝統に軸足を置きつつ現代的なものを採り入れている作品があったんだと思った。

古典芸能のこういう新しい試み、楽しい。