また、2月に観た舞台の感想です。
『真田十勇士』
脚本:中島かずき 演出:宮田慶子
出演: 上川隆也、柳下大、黒川芽以、葛山信吾、山口馬木也、松田賢二、渡部秀、相馬圭祐、
賀来千香子、里見浩太朗、小須田康人、粟根まこと、鈴木健介、吉田メタル、俊藤光利、
佐藤銀平、玉置玲央、三津谷亮
美術:伊藤雅子 音楽:井上鑑feat.吉田兄弟
日時:2015年2月13日(金) 18時30分〜
会場:キャナルシティ劇場
舞台にかなり傾斜がかかっている。舞台用語で“八百屋舞台”と呼ばれているらしい。奥が高くて手前の客席側が低い造り。それも今回のは曲線でうねっている傾斜。開演前は、その舞台の上空に孫悟空が乗るような雲がぷかぷか浮いていた。
始まると雲は引いていった。そこは森になり、大阪城になり、城下の店先になり‥。殺陣はあるわ、一輪車は走るわ、大砲は響くわ‥。惚れた腫れたもあるわ‥。舞台に傾斜がある分、そこでのお芝居が立体的になり迫力が増す。ダイナミックな作品だった。かつスタイリッシュだった。
2013年の公演の再演だそう。脚本は中島かずき。だからか“ギャグが少なめの劇団☆新感線“というかんじもした。
今からちょうど400年前の大阪夏の陣の話。
豊臣家を追い詰めた徳川家康。その家康はかねてから、豊臣側についている真田幸村を味方につけようと画策していた。だが幸村の豊臣家への忠誠心は変わらない、幸村は家康に直接会ってそのことを伝える、そんなエピソードから話は始まった。
幸村は劣勢でありながら、自分に仕える者たちと力を合わせ、豊臣家に義を尽くし堂々と家康と戦う‥‥と、大まかにいってしまえばそうなんだけど、到底そんなシンプルな直球勝負で済まされる話ではなかった。戦国の世、誰がいつ寝返るかわからない、誰が味方で誰が敵なのか、主人公のあなただって、実はどっち側なの?あ、そしてそこの人、さっきまでこっち側の人だったのに何故こっちに向かって刀を抜く?‥というようなスリルではらはらさせながら渦のようにストーリーが進んでいった。
上川隆也を舞台で見るのは久しぶりだったけど、相変わらず声はよく通るし立ち居振る舞いはすっきりしているし、安心して見ていられる。自分は上川ファンだったことを思い出した。(なんでファンだったこと忘れていたのか。あまりにもメジャー過ぎて‥か。)
幸村は当時、父や兄に比べあまり知られていなかった様子、それが大阪城を守る中心人物として一躍脚光を浴びるのだが、そこはすんなりいかず、豊臣家の側近からも信用されない、自分が取った策略についての後悔を息子や部下の前で赤裸々に吐露する(しかも酔っ払って)‥など弱さもさらけ出す人物で、そこが上川隆也の青年らしい側面とうまく合っていてよかった。(パンフレットの作者の言葉にも、幸村をいわゆる英雄然とした人間ではなく、悩めるリーダーとしても描きたかった、というようなことが書いてあった。)
幸村の衣装は赤を基調にしていて、大きな立ち回りなど舞台上で映えて決まっていた。
そして、家康だ。里見浩太朗だ。古狸ではない。
悪役ではなく、国の将来を見据えている天下人。
上川隆也と里見浩太朗。言ってみれば正義が二人。
二人が対決するシーンが印象的だった。二人ともそれぞれの陣地にいるのだが、舞台上の左と右、離れた場所にいる。身体と顔は客席に向いている。
幸村がしゃべっている時は、家康の陣地の方は照明が当たらず暗く、逆に家康がしゃべる時は幸村のほうが暗くなるというのが交互に繰り返される演出で戦いを表現していた。家康の陣羽織の金色が、きらきらしていた。
白熱した攻防だった。
家康は狸ではなかったが、「今の大阪城は帯をほどいた女の姿。」などとのたまう場面があり、一枚上手だな、と思わせる風格だった。
音楽は“井上鑑feat.吉田兄弟”。津軽三味線の音で緊迫感を奏でる。中島みゆきの主題歌が流れるタイミングも効果的。
俳優たちは皆、お芝居と同様に殺陣もこなし躍動感があった。
それぞれ魅力的だった十勇士、その中で注目したのは、根津甚八(粟根まこと)と穴山小介(玉置玲央)。どっち側につくのか二人の行動がアヤしくて、味があった。
女性陣は、淀君が賀来千賀子。いらついて怯えつつも貫録のある淀だった。
茶店の娘・ハナは、ストーリーの展開上、思いのほか重要な役柄で、黒川芽以が凛とした態度で演じていた。
舞台はラストに向かって一気に盛り上がる。
カーテンコールでは、呼ばれるたびに上川隆也が登場し、上り坂の傾斜舞台を何度も軽々と駆け上がってみせた。若い。
大掛かりな時代劇の舞台を堪能でき、なおかつ、時代ものに必ず出てくるいわゆる“ワルモノ”が出て来ないお話、という点も私には新鮮だった。そのあたりが現代的だった、と言えるかも。
真田十勇士の話は一度映画で観たことがあった(記憶がかなりあやふやになっている)。あの映画も、もう一回観たくなった(『真田風雲録』1963年 東映映画)。