シングルマザーズ

二兎社のお芝居、初めて生で観劇です。満席でした。



『シングルマザーズ


    二兎社公演36 二兎社30周年記念
    作・演出:永井愛
    出演:  沢口靖子 根岸季衣 枝元萌 玄覺悠子 吉田栄作
    日時:  2011年4月10日(日) 14時〜
    場所:  大野城まどかぴあ大ホール




〜深刻なのに笑ってしまう 懐の深い セリフ劇〜



シリアスなテーマを扱いながら自然なユーモアがまぶされていて、笑って観ているうちに最後には涙が出そうになる。そんなお芝居だった。


舞台はおんぼろアパートの一室。シングルマザーを支援する団体「ひとりママ・ネット」の事務室だ。
上の方は三角屋根の骨組みの部分・太い木がむき出しでさらされている。部屋のまん中には白いソファ。少し左に机が二つ三つ。更に左には窓。反対側右端がドア。台所もある。お茶セットもある。床には段ボール箱など雑然。いかにも忙しいNPO団体の部屋だ。(劇中ではNP0かどうかは、はっきり言われてはいないけれども)[美術:大田創]


「ひとりママ・ネット」事務局長・上村直(沢口靖子)、代表は高坂燈子(根岸季衣)。二人ともシングルマザー当事者。相談に来た難波水枝(玄覺悠子)や大平初音(枝元萌)もいつの間にか半ばスタッフのようになる。

家出した妻を探しにやってくる男・小田行男(吉田栄作)は、逆・紅一点。忘れた頃にふらりと菓子折を持って現われる変わった人。


2002年、収入の少ないひとり親家庭に支給されていた「児童扶養手当」が6年後に削減されることが決まる。それではやっていけなくなる家庭がどれだけ出ることか。弱者に冷たい政策を撤回させるべく国会を相手に地道な活動を展開する「ひとりママ・ネット」
‥とこうくると、お堅い匂いがするかもしれないが、蓋を開ければ(‥ではなく、幕が開いたら)、半分以上は笑い。
確かに運動のための統計的な数字や政治状況の説明の台詞は多いが、以前にニュースで流れていた一連の出来事の裏事情がわかり、なるほどと思った。そのあたりは一歩間違えば解説調になるところだが、うまく会話に乗せていたと思う。


個性的な女優たち‥と男優


シングルマザーたちの言葉は切実だ。
正社員の道は遠く、派遣やバイトなどが頼り。ダブルワークで月12万とか13万とか。それで子どもを育てていかなければならない。その厳しさが想像に難くないだけにつらい気持ちになるが、舞台は悲惨にはならない。


たとえば枝元萌扮する初音の登場場面。子ども3人抱えて部屋を探すのが、或いはパートの仕事を見つけるのがどんなに大変だったかを訴える、その仕草ひとつひとつに可笑しみがある。笑いごとではないし、茶化しているわけでももちろんないが自然に笑ってしまう。
その時、事務室にいた玄覺悠子演じる水枝が不倫で子どもを産んだことを知り、夫の浮気相手と重ね合わせて怒りを爆発させそうになる。しかし、いや待て、この人は“彼女”ではない、と自分を押さえる。でも‥でも‥という葛藤から逃れるために「そうだ、晩御飯のメニューを考えよう。」突飛なことを言い出し、「晩御飯に集中しろ。晩御飯に集中しろ。」とそろりそろりと、その場から退散しようとする。おかしい。

スキップしつつ「絶望の果てには笑いしかない。」劇の半ばでそう開き直るところがある。
ここまで突き抜けるとすごい。
泣いたり怒ったりの挙句に笑う。実はすごいと思う。強いと思う。


そして、登場する女性陣は様々にあがきながらも強さがあることに気付いた。


事務局長・直。“長”としては新米のがんばり屋さん。トラウマを克服しようとする役を沢口靖子が一途に演じていた。


根岸季衣の燈子。会のリーダー的存在。てきぱきと歯切れよく貫録だった。


終始「〜っすか?」「〜っすね。」という口調の水枝。彼女を演じる玄覺悠子は投げやり風な演技で目をひいた。
キャバクラで働きながら簿記を学び事務職を目指す。次はパソコン検定
それも上昇志向からでなく仕方なく。細身な風貌で、やる気あるのか。流されているようで流されていない。子どもの成長はしっかり喜ぶ。脱力系(に見える)母。そこらへんにもいそうだ。


対する男性陣は一名のみ。闖入者・小田さん。
“シングルマザーvs夫”という点からいえば、向こうの国からやってきた人だが、敵としてではなく同じ土俵に引き入れられている。(初音と水枝の出会いの場面も“妻vs愛人”の気配があったが)
こういうテーマだけれども一方的なお説教臭い芝居にはならないのは彼の存在も大きい。
家出した妻と子どもを追うサラリーマン・小田行男。彼としても切羽詰まっているのに、ふざけているのか真面目なのかよくわからない抜けた味があった。大柄な身体で、しおらしく振る舞えばコミカルだし、怒鳴ると迫力があるし。女性たちの中でちやほやされたりもして、いい人なのか、変な人なのか。揺れている。
演じる吉田栄作はテレビでのイメージと違い、意外に面白い。


沢口靖子にしても吉田栄作にしても、長年の芸能活動でイメージが出来上がっているが、私の席からは俳優の顔までははっきり見えなかったせいもあるのか、二人ともすっかり舞台に溶け込んでいた。それぞれ、一生懸命な直さん、ちょっと変わった小田さんにしか見えなかった。



鳴りやまないチューリップ拍手へ


全二幕。幕ごとに二場あり、場面が変わる時に、舞台の左上、三角屋根の木の骨組みの横あたりに、「2002年 ○月×日」と年月日が光で照らされる。最後は2007年。この問題の政策が結局どうなったのか恥ずかしながら自分の記憶が曖昧で、はらはらする気持ちで観ていた。その間、シンノスケがこの間ごはん炊いた、マサトがお風呂洗った、などなど子どもたちが大きくなっていくエピソードが心強く、また登場人物それぞれの生き方が身にしみた。


現実を真正面からとらえていながら堅苦しくなく、台詞のみのお芝居で面白く最後まで見せてしまう。
あっぱれ〜と、親分風に言いたくなった。


一幕め、二幕めが始まる前の、弦楽器の音楽もとても魅力的だった。


カーテンコールでの勢いのいい拍手は、会場中ほどあたりの私の席からは、観客たちの手が、大きく開いたチューリップの花のように見えた。何百ものチューリップがずっと拍手を続けていた。