怪人と探偵

半年以上前に、遠征して観た舞台。

その後、年末にWOWOWで放送されたものを知人が録画してくれて(感謝)、その何ヶ月か後の最近、そのブルーレイで、再・観劇。

 

レビュー、長文ですみません。

 

 

『怪人と探偵』

 

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原案:江戸川乱歩

作・作詞・楽曲プロデュース:森雪之丞

テーマ音楽:東京スカパラダイスオーケストラ

作曲:杉本雄治

音楽監督:島 健

演出:白井晃

 

出演:中川晃教加藤和樹大原櫻子水田航生、フランク莉奈、今拓哉樹里咲穂、有川マコト、山岸門人、中山義紘、石賀和輝、高橋由美子、六角精児 (ほか)

 

日時:2019年10月3日(日) 13時半〜
会場:兵庫芸術文化センター 阪急中ホール

 

 

~乱歩の世界がミュージカルに~

 

日本製の新作ミュージカル。作った人は森雪之丞(作・作詞・楽曲プロデュース)。作詞家として有名だが、近年、ミュージカルにも力を注いでいる。彼と岸谷五朗(演出)がタッグを組んで生まれたミュージカル『ソング・ライターズ』を観たことがあり、それは心に刻まれる舞台だった。

 

今回は演出が白井晃。そして主演は、『ソング・ライターズ』と同じく中川晃教

そう来たらもうこの時点で、こちらはぐぐぐ~と引かれてしまう。

 

で、肝心の舞台は。

派手だけれど、実は緻密、時にユーモラスで、胸に染みるシーンあり、そして爆発力もあり。手練れの構成(が、パンフレットなどによると試行錯誤だったとか)。

 

そして『ソング・ライターズ』に引き続き、雪之丞の歌詞に泣かされた。

 

お話は、江戸川乱歩テイスト。原案が「乱歩」となっている。特定のある話が原作ではなく、彼の作品のエッセンスを取り入れて新たな物語を作り上げたらしい。怪人二十面相が現われ、世間を挑発するような事件を起こす、それに探偵・明智小五郎が挑む‥そんなストーリーに、男女の三角関係もからむ、というようなミュージカル。

 

オープニングは、二十面相の犯行予告のあった博物館。警察官が何人も警備にあたっている‥というか、歌って踊っての警備で楽しい。その中から、警官に変装していた明智小五郎加藤和樹)が早変わりで登場、そして予告通り、怪人二十面相中川晃教)も黒のシルクハット、裏地が赤の黒いマント、仮面舞踏会で使うような黒い眼鏡のようなあれ(ベネチアンマスクというのかも?)を付けて現われる‥と、出だしは目まぐるしく、テンポがいい。

 

スカパラ東京スカパラダイスオーケストラ)の音楽で、昭和モダンなダンスホールの雰囲気という印象を受けた。

 

二回目の犯行予告の場面から、物語が動き始める。二十面相のターゲットは、元・子爵・北小路家の家宝「パンドーラの翼」。

赤い大階段が中央にある北小路家の広間では、元・子爵(今拓哉)、その妻(樹里咲穂)、令嬢リリカ(大原櫻子)、その婚約者・安住財閥御曹司の竜太郎(中川晃教‥二役か?それとも‥?)らが、集まっている。そこへ駆けつけた探偵・明智、リリカを紹介されると二人ともぎくっとする(実は二人の間に、人には知られていない繋がりが過去にあったことが、直後の歌でわかる)。

 

予告時刻になると、二十面相が現われるが、「パンドーラの翼」は爆発、リリカは二十面相にさらわれる‥‥

 

はらはら、アクションもありの動的な場面と、メロディアスな歌で聞かせる静かな場面と、話の流れに沿って舞台は繰り広げられてった。

 

日本語歌詞の染み入る歌声 

 

音楽は、スカパラがテーマ曲を担当、あとの曲はバラエティがあった(作曲:杉本雄治)。

 

私が、じ~んときたのは

“人にはなぜ 心なんかあるんだろう?”と歌われる曲。

 

“悲しみで満ちる うつわになんかなるんだろう”と続く。

(「微笑みの影」作詞:森雪之丞、作曲:杉本雄治)

 

竜太郎とリリカの歌唱。婚約者を本当に愛しているのか、信じていいのか、ゆらぎの中で歌われる、スローなナンバー。

 

謎解き、探り合い、活劇‥そういう探偵ものの物語の運びにあって、登場人物たちの心の内が滲む、繊細で情感たっぷりのデュエットで、ぐっと来た。

 

あっきーこと中川晃教。御曹司の竜太郎の時は、ちょっとあわてんぼで、誠実そうだけど何を考えているのかよくわからないキャラ。美を愛し、欲しいものは全て手に入れようとする怪人二十面相の時は、セリフがだみ声で、歪んだ内面が表れていた。

歌声はやっぱり伸びやかで、私は2階席の最後列で観ていたのだけれど、そこででも包み込まれる感覚。

二十面相の怒りのメーターが上がったとき、声量も更にアップ。もっと、もっとと煽りたくなった。(『ロック・オペラ モーツァルト』のサリエリ役を思い出した。) 劇場全体が歌声で覆われた。

 

彼に対峙する探偵・明智加藤和樹。あっきーとの共演は『フランケンシュタイン』以来2回目。あの時は、科学者ビクター・フランケンシュタイン(あっきー)が造り出した怪物役が加藤和樹。その怪物の歌唱はヘビメタ系耽美派(←勝手な造語)、独特な雰囲気を醸し出していた。今回は、中折れ帽に三つ揃いのスーツ。背中はいつもピンとまっすぐ。ナルシストっぽく徹底していてよかった。歌声は太く、聞きとりやすくていい。高音もきれいに出るけど、あっきーの高音とは違う。だから二人の歌声がハーモニーになる。明智は、態度はいつもクールだが“♪思い出してはいけないのだろうか”‥など、心情は全て歌に託していた。

 

ヒロインの大原櫻子は、初めて観たけれど、歌声はナチュラル。(歌い上げる派、ナチュラル派、と私はざっくり分けています) 下手したら嫌味な役柄になりそうなところを、チャーミングで、そして湿っぽくないのがいい。あっぱれ。と言いたくなった。

 

湿っぽくない、といえば、明智事務所のマユミさん(フランク莉奈)。明智に思いを寄せているのだが、パンフレット掲載の写真を見ると美しい人なのに、振り幅がある演技。びっくり。突き抜けたようなところがあり、妙な痛々しさはなかった。持ち味か。

 

同じく明智事務所の小林(水田航生)も、シュッとしていて、軽快。「なぜ 心なんかあるんだろう」の丁寧な歌唱もよかった。(欲を言えば、もう少し声量がほしいが)

 

今拓哉樹里咲穂は、クセのある元・子爵夫妻を、余裕綽々、コミカルに見せていて、登場しただけで、なんか可笑しくなった。樹里咲穂は、着物姿で飛んだり跳ねたり踊ったり。

 

そして、警視庁捜査一課の警部役の六角精児も、舞台に馴染んでた。結構重要な役だった。

 

嬉しかったのは、高橋由美子。しばらく舞台から遠ざかっていたけれど、ブランクを感じさせない安定感。なんかいつも、軽々と演じてしまう。地味な家政婦と、二十面相の一味のネコ夫人。変幻自在。

 

時おりスクリーンを使用するなどセットも大掛かり、壮大な嘘に大仰に騙し騙され、エンターテインメントとして引き込まれつつ、歌にしんみり。日本語が生きる楽曲が味わえるのが、日本製ミュージカルの醍醐味。終演後、口ずさめるフレーズがある、というミュージカルは、やっぱり貴重。再演、希望。

 

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ところで。

「微笑みの影」の歌詞が耳に届いたとき、中川晃教ファンの私には、ある歌が重なった。

 

オズの魔法使い』を基にしたミュージカル『THE WIZ』(映画版ではマイケル・ジャクソンも出演)。この楽曲を全曲一人で歌い上げるというライブを、あっきーは以前、年末に何年か続けていた。CD化もされている。

            THE WIZ-ザ・ウィズ-

 

その中で、自分にはない「心」をほしがっている「ブリキ男」の歌が

“What Would I Do if I Could Feel?”(作詞/作曲 Charlie Smalls)

 

“どうだろう もし心があったなら”

“泣いたり 笑ったり 心が豊かなら どうだろう もし心があったなら”

(訳詞 中川晃教

 

このくだりは、聴くたびに胸に来る。

 

“人にはなぜ 心なんかあるんだろう?”(「微笑みの影」)のフレーズが、重層的に響いた。(ファンにとっては相乗効果)

 

 追伸  1.

上記の『ソング・ライターズ』と『ロックオペラモーツァルト』は観劇記録あり。

再演 SONG WRITERS ソング・ライターズ - chihiroro77のレビュー日記

ロックオペラ・モーツァルト - chihiroro77のレビュー日記

        

追伸 2.

「怪人と探偵」はサウンドトラックのCDが発売されます♪

2020年5月1日発売予定だそうです。